静かだ。
ラムザは遠くに向かって耳を澄ましたが、僅かな水音以外に聞こえるものはなかった。床を洗った水を流すために部屋の端に開けた穴からその水音は聞こえる。どこか別の水場とも繋がっているに違いない。
しかしそれもどうでも良い事だった。体中が内側から火を噴きそうだから、何かで紛らわせたいだけなのだ。
苦痛よりも大きな熱、ずっと涙が止まらない。
暗く湿った石の床は冷たく、自分の髪以外の敷物も無いのに、ラムザは熱のために痙攣していた。床の所々に突き出した環状の突起物から伸びる影が、笑うようにちろちろと揺れる。低い位置のランプが消えかかって瞬いているからだ。何日経ったのかラムザは知らない。ここには時間は無かった。ラムザは起こされているか気を失っているかで、それらは全て彼らの気分次第で行われる。食事の回数もまちまちで、ラムザは世界を手放しているように思った。
ぼんやりとした意識で自分の手を見つめる。じゃらり、と鎖が鳴る。それは手首にはめられた金属の輪に繋がっている。表面に皮を貼ってあるが擦れて手首に血が滲んでいる。足首も同じだ。
のろり、と体を返す。熱い。大きな痙攣がくる。やり過ごせず低く声を漏らす。鎖が鳴る。
嫌だ。
嫌悪の痙攣だった。逆らえない熱さにラムザは両手で体を抱くようにしながら、それぞれの腕に爪を食い込ませた。
嫌だ。
そのまま転がる。鎖がつれて止まる。
嫌だ。
刺さった爪が、皮膚を裂きながら離れる、体を曲げ目を瞑った、涙が止まらない、手が降りて行く、そんな事を望んでいるはずがない場所へ降りて行く、嫌だ、嫌だ、嫌だ、と、呟きながら性器を握り込む、あまりにも激しい性感に悲鳴を上げ、爪先が突っ張り、開いた口から唾液が零れた。
「どうしたよぼうや。もう欲しくなったか?」
ほっとした。
ここにきてはじめてだ、うれしいなんて。
しなくていい。
してもらえば、いいんだ。
計画実行の日、アグネスの身代わりとなったラムザは計画通りに気を失った振りをして土の上に転がった。「獣の巣」達はラムザを蹴り上げ縛り上げると担いで走った。そしてまた土の上に乱暴に落とすと少しの間、殺すか連れ去るかを話し合った。そしてチョコボの引く荷車に乗せられた。随分と揺られて夜が明けかけた頃、鎧兜を全て奪われて何度か殴られた。歩けと言われ草の間を抜けて小さな小屋に辿り着き、布を噛まされて転がされた。
一人、震えながら朝を迎えて破れた屋根から落ちてくる陽の光を見つめていると、別の一団が現れた。彼らは無言でラムザを引き起こし、今度は大きな布袋に彼を詰め込んだ。そして再び荷車に乗せた。
着いた場所がどこなのか、ずっと袋の中にいたラムザには全く分からなかった。担がれて運ばれ、何度か扉が開け閉めされる音を聞き、そして石の部屋に投げ出された。袋を剥がされると髪を掴まれて上を向かされ、やっと相手の顔を見た。それは二十代半ばの首筋に刺青のある男だった。その男は何を思ったかしばらくラムザを観察するようにしてから軽く笑い、用を足す場所、即ち部屋の端に開いた穴を教えてから部屋を出た。
それからしばらくラムザは放っておかれた。逃亡出来るものなのかと部屋を検分したが、手の届かない高い場所に小さな窓があるきりの部屋には家具一つ無く、奇妙な環状の突起が床のあちこちに埋め込まれているだけだ。また排水溝は小さく、猫が通れる程度のものだった。救出が来るまでは逃亡は不可能だと、唇を噛んで暗い部屋の中をうろうろと歩き回っていたところで、再び先程の男が扉を開けた。他にひょろ長い男、日に焼けた男、そして精悍な戦士じみた体付きの男の三人が一緒だった。
「よう坊や、元気かい」
それ以後何度となく聞く事になる呼びかけをラムザは初めて耳にした。
「腹が減ってるだろう? 食えよ」
そう言って、彼はラムザの足元にパンを放った。無視し、男達を精一杯睨み付けると、彼らはやけに湿っぽく笑った。
「拾った方がいいぜ」
「それを食わなきゃ次はいつか分からんぞ」
「踏まれて泥だらけになる前に拾えよ」
しかしラムザは動かなかった。正確には動けなかった。男達がゆっくりと近づいて来るからだ。彼らは皆ラムザよりもずっと体格が良い大人だった。暴行が始まる気配を感じ、ラムザは恐怖に後退った。
「そんなに怖がるなよ。よってたかって子供を殺すなんて、しないぜ?」
「まあ、坊や次第だがな」
男達はまた湿った笑いを交わす。ラムザはにじり下がり、踵に異物感を感じてはっと背後を見ると壁が迫っていた。
「おっと」
反射的に男達から逃れて壁沿いに走り出したラムザの腕を一人が掴む。
「離せ!」
あまりにも無力な言葉にくらくらしながらラムザは暴れた。
「なるほど、可愛い顔だ」
「だろう? 楽しめるぜ」
「貴族のぼっちゃんは肌まで違うんだな」
ひょろ長い男がラムザの首筋に手を伸ばした。しゅる、と小さな音がして紐が解かれ髪が散らばる。うなじを撫で上げられてぞっと背筋を緊張させるラムザを笑いながら、その男は頬まで指を滑らせた。無我夢中でラムザはその指に噛み付いた。途端に顎を掴まれてきつく締め上げられる。指を離してもその力は緩まず、ラムザは痛みに震えて小さくうめいた。
「くそ……歯型が付いちまった!」
「はは、噛み切る力もねえか」
「笑ってんじゃねえよ!」
腹を立てた男は顎を離すと平手で殴りつけ、床に崩れた背中を踏みつけた。ラムザが這って逃げようともがくと、ぐっと力がかかって冷たい床に肩が擦れる。そこで他の三人が止めにかかって男をラムザから引き剥がした。
「怪我させるとシラける。その辺りで止めとけ」
「加減してるさ! 反抗したら痛い目に合うって事を教えてやる!」
「すぐに覚えるさ……なあ、坊や」
刺青の男が屈み、ラムザの髪を掴んで引き起こし笑いかけた。粘い、絡みつくような目の光だった。
「それじゃあ、始めるか」
そんなのんきそうな言葉が始まりの合図だった。
男達はラムザを引きずり起こすとダガーを取り出した。脳裏に爪や皮膚を剥がす拷問が瞬き、ラムザは強く目を瞑った。食いしばっても歯はがちがちと鳴り、男達は奇妙な笑いを漏らしながらラムザの服を裂いていく。
「綺麗な髪だな……この肌は絶品だ」
刺青の男がラムザの腹から胸へと撫で上げ垂れた髪の先を指に絡めて弄ぶ。恐怖で固まっているラムザを背後から抱き、じっとりとその首筋を舐め上げた。ひ、と息を詰めてラムザが目を見開くと、他の男達が手首と足首に重い輪をはめている。そしてその輪に鎖が繋がれ、鎖の末端は床の環状の突起に填め込まれた。余裕のある長い鎖は重く、ラムザは放り出されると鎖を鳴らして床に這った。絶対に逃げられない縛めを己の目で見て、ラムザは全身の血を下げ全裸の頼りない体を丸めた。
「白いな。北の生まれか?」
男達はラムザの四肢を掴み、四つ這いにさせると体中を撫で擦った。一体何が始まったのか、ラムザには想像もつかなかった。不快と恐怖でラムザの肌はぴりぴりと泡立つが、暴れようにも四人に押さえ込まれていてはどうにもならない。男達は楽しげに笑いラムザの体をざわざわと擦る。そして誰かの手がラムザの縮こまった性器を握った。
「ひっ……!」
混乱に悲鳴を上げ、性器を扱く指から逃れようとラムザは体をくねらせた。
「勃たねえな。起こすぞ」
ぐっと髪を掴まれて喉を反らす。膝立ちの姿勢になったラムザの体にまた男達の手が纏わり付く。そして生暖かい感触が性器に絡んだ。信じられない感触に必死に顔を動かすと、性器に刺青の男が噛み付いているのが分かった。ラムザにはそう見えた。
「い、いやだっ!」
滅茶苦茶に暴れるラムザを背後の男が羽交い絞めにした。そして乳首を強く摘んだ。
「いっ」
痛みに仰け反る。すると力が弱まり指先でもみこむ様な動きになった。同時に性器への刺激が強くなる。
「あ、あ、いや、だ……」
性感など知らないラムザにとって、意識して触った事も触られた事もない場所に与えられる感触は恐ろしいばかりだった。
「全然だな」
言葉とは反対に、嬉しそうに刺青の男はラムザの性器から顔を上げて言った。ぬめる感覚が去ってほっと息を吐くのもつかの間、再び舌が絡む。う、と小さくうめいてラムザは頭を振った。気味の悪いはずのそれが、奇妙な感覚に変わってきている。わき腹や背中といった敏感な場所を触られるとそれは強くなる。ラムザは歯を食いしばったが、男達がそれまでとは違う吐息を聞き逃すはずはなかった。
「良くなってきたか? 勃ってきたぜ」
乳首をこね回す男が耳元で言う。何の事が分からなかった。耳元の男を窺うと、彼はラムザの下方を凝視していた。その視線を追い、ラムザはびくりと体を震わせた。
「……え……?」
自分の性器の形が変わっている。刺青の男の口から出入りするそれは、奇妙に腫れて上を向いていた。
「気持ち良くなってきただろう?」
低くいやらしい音が耳に響く。尻を撫でていた指が肛門の表面に触れ始めた。性器は熱を発し息が上がり、ラムザは目を見開いて頭を激しく振り、硝子が割れ飛び散るように髪を乱した。
「あっ、あっ、いや、だ、あ、」
「いけよ、坊や」
男の言葉が理解出来ない。思考が分解し渦巻く。切迫した呼吸に命の危険すら感じてラムザは悲鳴を上げた。しかし誰の手も緩まない。魚に似た生き物のような舌の感触が徐々にラムザの嗜好を占領し、ある瞬間、足元から体の真ん中を一気に突かれたような感覚に驚愕して顎を上げた。自分の鼓動が耳元で聞こえ、ラムザは失禁したと思った。
「良かったか?」
はあはあと息を吐き撒くラムザに野卑た笑いを聞かせながら男達は彼を再び四つ這いにする。諾々と従うラムザの膝は石の床に突いた途端にがくがくと震えて崩れた。一体何が自分に起こったのか、この震えと奇妙な喪失感が何に基づくものなのか、ラムザには未だ知れなかった。
「や、めろ……」
辛うじてそう発音しながらラムザは床に爪を立てた。ダイスダーグがアグネスに命じた事柄は知っている。拷問が始まれば適度に抵抗し、頃合をみて情報を流す。自分の体がなにものでも無いような感覚の中で、ラムザはその「役割」に縋った。
「やめるわきゃねーだろが!」
声高く笑うのは日に焼けた男だろうか。震えが収まってくると共に力無く頭を床に預けるラムザを男達は触り続けている。一人が足を折り曲げ尻を上げさせた。それを人事のように感じてラムザは目を閉じていた。が、
「あ、あっ!」
何かがぐっと体にめり込んで来た。
「ひ、あ、いやだ、あ、いやだ!」
殺される、本能的にそう判断してラムザは必死で体を動かした。もっと尻を振れよと誰かが笑う。しかし最初の衝撃が引いていくとそれはさほどの激痛ではなくまた、何が起こったのかラムザは驚愕と共に理解した。尻の中で何かが動いている。指だ。
「何、何を、あ!」
指が増えた。性行為の本質さえ知らぬラムザは、それらは苦痛を与える事を目的とした拷問であると信じた。やけにぬるぬると指は動き、僅かな排泄感とそれを上回る痛みにラムザは唇を噛み締めた。正しい意味を掴めないままラムザは激しい屈辱を覚えて涙を流した。
「きついな。こりゃしばらく掛かる。おい、交代しろや」
「おう」
じくり、と湿った音を立てて指が引き抜かれてラムザはぎゃっと喉を鳴らした。間髪入れずに再び指が突き入れられる。歯を噛み締めてやり過ごすと今度は何か冷たい物が尻に振りかけられた。それに身を竦ませるラムザに、締まったぜ、と男が笑う。
それは長い時間続いた。四人は代わる代わるにラムザの後口を混ぜ、ラムザの頬が床の冷たさに感覚を失って痺れ始め、石に擦れた膝が軋む頃、もういいか、と誰かが言い指が抜けた。
「どうする?」
「そりゃ決まってるだろ、見せてやらなきゃな」
仰向けにされたラムザはされるがまま、ぼんやりと天井を仰ぐ。その視界に刺青が浮かんだ。強く足首を掴まれ限界まで足を開かれる。そのまま膝を折り曲げられ、ラムザは筋肉が不自然に伸ばされる苦痛にうめいた。
「見ろよ、坊や」
しかめた瞼を僅かに開く。白いものと赤黒いものが視界に揺れている。
「入れるぜ」
白いものは自分の爪先だった。ぐっと力がかかり床につくのは肩の辺りだけ、そこに髪が巻き込まれて顎が限界まで上がる。ラムザは力無く腕を振ろうとしたが拘束する者達が許さない。くう、と鳴る自分の喉の音が鮮明に耳に響き、そして激痛が来た。
「ひ、」
一つ息を吸ってラムザは目を剥いた。体のどこかにナイフを捻り込まれた、そう感じて目の前が真っ白になる。凶器はぎりぎりと沈み続け、ラムザは建てつけの悪い扉をこじ開けるような音を聞いた。自分の悲鳴だった。
痛い痛い痛い
目を瞑る。もう、開ける事は出来ない。痛みは凶器の根元から全方向へと放射しラムザの息を止める。頭の中に自分の悲鳴がこだまして消えない。
「きつい……」
刺青の男が欲情のままの声を漏らし、他の二人が結合部を覗き込む。
「裂くなよ」
「油、足せ」
振り掛けられる潤滑油を流れる血と感じてラムザは身を縮めた。
「そんなに締めるなって」
笑い声が石牢に響く。
「動くぜ、ぼうや」
言葉と同時に男はぬっと性器を引き抜いた。
「あ」
呆けたようにラムザの目が開く。先端近くまで抜き、半分ほどまで再び埋め込むという動きを男は始めた。ラムザに見せ付けるように、男は高く腰を上げて突き入れる。そしてラムザの乳首や性器に沢山の指が絡まった。油のぬめる音と粘膜の発する音を聞きながらラムザはただ茫然と涙を零した。男が前後に動く影は死そのもので、次第に激しく深くえぐる凶器の激痛は脳髄まで打ち込まれる。
――死ぬんだ。
そうラムザは思った。こんな冷たい牢の中で、刃物でぐちゃぐちゃに突き壊されて死ぬ。そんな自分が悲しく哀れでラムザは泣いた。男達が酷く楽しげであるのもまた、ラムザを泣かせた。
やがて男の動きが速まり挿入も深まってラムザの視界が黒く濁る。そのままどこかへ落ちていくようだったが、不意に男の動きは止まった。体内に何かの刺激を感じ、そしていきなり内蔵を引き抜かれるような衝撃がきた。ぎゃ、と喉を潰した声を発してラムザは脱力した。その体を即座にうつ伏せ、次の男が被さった。尻を高く上げられまた凶器が差し込まれる感覚、ああ、こんなにもえぐられてもまだ死ねない、振り回されながらラムザは頭を抱えてすすり泣いた。いつまでも死に至らない絶望と終わらない苦痛がラムザの感覚の全てとなっていた。
彼らの間で順番は決まっており、柔らかく細い体を荷物のように折り曲げ持ち上げては、各々好きなように犯した。二順して行為が終了した時にはラムザは意識も反応も失い、頭を抱えて小さく丸まっていた。
そのまま気を失ったのか眠ったのか、意識が無かった事に気付いたと同時に冷水を浴びせられた。心臓を跳ねさせながらラムザは身を起こそうとしたが、体のどこにも力は入らなかった。布でごしごしと体を擦られ水を浴びせられるままに、ラムザはがちがちと歯を鳴らした。
「そんなに寒かったか? 乳首が立ってるぜ」
ラムザは床から引き上げられて男の膝の上に乗せられた。抱きかかえられて乳首と性器を擦られながら背後の男の体温に唯一の救いを感じてラムザは力を抜いた。
「どうだ、良くなってきたか?」
ねちっこい、芝居の台詞を読むような発声をする男だった。ラムザは訳も分からず、うんうんと肯く。
「可愛いじゃないか」
髪を撫ぜながら上向かせ、男は舌を伸ばしてラムザの顔を舐めた。
「吸ってみろ」
言われるまま口に差し込まれた舌を吸う。小鳥の鳴き声のような音がした。
「可愛いな、おまえは」
満足げにそう言い、男はそれでラムザを手放し冷たく濡れた床に転がした。震えながらラムザは手を伸ばし、男は機嫌よさげに、またな、と言って去ってしまった。
次に目を開けると毛布でくるまれていた。横たわったまま、恐る恐る体を確認する。酷い怪我は見当たらない。しかし、起き上がろうとして下肢に痛みが走った。傷の場所ははっきりとは自覚出来ないが、足を開かされた記憶があり、怯えながら開いてみる。激痛を覚悟したが、さほどではなかった。酷い怪我ではなさそうだが腿に少し血が垂れているのが見えた。一体どこが傷ついているのか分からない。足の間をそろそろと触り、一番傷む場所を探して肛門にたどり着く。なぜ、と思う。分からない。
それだけの動作でラムザは疲れ果て、考えるのをやめて再び毛布にくるまった。すると、すぐ側にパンと冷えたスープの入った食器が見えた。少し逡巡し、ラムザは手を伸ばした。
――生きているのなら、計画を進めなければならない。それが自分の役目であり、皆を騙してアグネスと入れ替わった自分の責任なんだ。
固いパンを噛み締めながら、ラムザは兄を思った。神々しい兄を。
はっと目を開ける。体が浮いている、そう感じてラムザは全身を緊張させた。急激な目覚めに鼓動がどきどきと耳まで上がってくる。
「やっと起きたか、ぼうや」
一人の膝に乗せられて体中を撫で回されていた。あの拷問が始まっている、ラムザは体にぐっと力を入れた。
「飲めよ」
硝子の小瓶が口元に押し付けられた。歯を食いしばって耐える。ひんやりした感触の液体が僅かに唇に触れた。
「開けろ」
割り砕く強さで顎が掴まれた。ひっと息を呑み開いた歯列に甘いものが注がれる。それは透明な瓶に入った黄色の液体で、瓶の回りには黒い筋が入っていた。得体の知れないその液体の甘さは不自然で後味の苦いものだったが、泣き叫んで疲れた喉には奇妙に優しく、結局ラムザはすっかり飲み干した。
「よし、いい子だ」
ああ、これで死ぬんだろうかと咳き込みながら思う。
「始めようぜ」
楽しげな声が降る。ラムザはぐったりと抵抗を諦めて目を閉じる。
「ふさがってるな」
いきなり体の中に指を突き入れられ、ラムザは掠れた悲鳴を上げた。しかし、予想していたような痛みは無い。
「大して痛くはないだろう? おまえが眠っている間に手当てしてやったんだ」
感謝しろ、と言わんばかりの声だった。手当てなどどうして、とラムザは混乱し、そして動き出す指に息を詰める。
「よーく味わってみろ、昨日と違うぜ?」
やはり意味が分からない。ラムザは、くう、と喉を鳴らして異物感に堪える。
「ほら、ここだ」
指がどこかを触った。途端、ラムザの体が一つ大きく跳ねる。男達が色めき立ち、しかし一番驚いたのはラムザ本人だった。
「便利な薬だな、即効か」
「どうだろうな、この子の感度がいいのかもしれん」
強く内部を擦られてラムザは何度も跳ねた。いやらしく笑う声、くらくらと揺れる視界、毒、毒が、とラムザは目に涙を溜めながら死を待った。
「勃ったぜ、可愛いのが」
低く嘲笑、勃ちあがったラムザの性器に男達の視線が集まった。
「自分で触ってみろよ」
力無く投げ出されていた腕を取られて無理やり握らされる。
「こうするんだよ」
握らされた手を動かされ、ラムザは初めてその感覚を正確に受け取った。
「イイだろうが」
「あ、あ、」
昨日感じた、恐ろしい何かとは違った。腹の底から何かが湧きあがってくる。それを、尻の中の指が増長している。
「自分でいけよ」
抱えられたラムザは一杯に足を広げられていた。男達の視線が集中する。手を副えられて性器を扱かされラムザは喉を逸らした。湿った内臓の音が切迫した響きで脳内を駆け回り、何か出る、そう思った瞬間に思わぬ高い声が漏れて手が濡れた。はあはあと激しく息が乱れ、痺れるような感覚が全身を焼く。
「気持ちよかっただろ?」
耳元に息が掛かり、ラムザはびくりと震えた。己の髪が首筋に貼り付いているのが必要以上に気持ちが悪い。射精の脱力感の中でも、敏感になっている自分の感覚が確かに異常に思われた。
「効いてきたな」
まだ動いている指は数を増やしている。自分の性器は相変わらず上を向いている。どくどくと、体の奥から湧き上がるもの、効いている、何が、何が。
「ハメて欲しいだろう」
指の動きが抜き差しに変わる。
「あ、い、いや、だ、」
体が跳ねる部分を何度も擦られる。震えが立ち昇って全身が硬直し、再び性器から何かが出そうな感覚を感じた。
「ひ、いや、いや、」
ほとんど音にならない声を漏らしながらラムザはがたがたと震えた。
「いや、あ、あ、あ、」
三人がかりで持ち上げられ、背後の男の性器をまたぐ。そして先端を飲み込まされて、ぎいい、とラムザはうめいた。
「い、ひ、い、ううう、」
折れる程に背を反らしてラムザは口を開けた。水面の魚のように、ぱくぱくと口を開け閉めして空気を求める。
「良くしてやるぜ」
ペニスを荒っぽく扱かれ、挿入の衝撃で曖昧になっていた感覚が一気に戻る。髪を乱して衝撃に耐えるラムザの張り詰めた白い体を男達は目を細めて鑑賞した。
「女でもこんな色気は滅多にお目にかかれねえな……」
「扱く度に締まるぜ、分かってやってんじゃねえのか、こいつ」
「はは、おまえらガキに魂抜かれるなよ」
必死に息をつぐラムザはぶるぶると震えながら男を締め付けた。全身の筋肉が硬直している、ただそれだけなのだが、結合部を覗いていた男は嬉しげに尻を揉み、ぐっと奥まで貫いた。
「が、あ、」
断末魔に似た音声が冷たい床に落ちる。全て収めた状態で男は静止した。周りの者がラムザをぐらぐらと揺さぶり、乳首や性器を摘んで引っ張る。
「ぼうや、力を抜けよ。そうすりゃもっと気持ち良くなる」
酷い眩暈のように視界が揺れていた。熱い塊が尻の中でびくびくと動き、ラムザの何かを刺激する。白い肌にどっと汗が沸き、見開くばかりだった目に違う光が宿っていく。
「おい、ぼうやをしゃぶってやれよ」
誰かが嬉々としてラムザの性器にむしゃぶりつく。ぐちゃぐちゃと音を立てて舐めながら睾丸を柔らかく愛撫し、あっという間に射精に導いた。男達の声、性器への快感とそれに連動し始めた抜き差しが生む得体の知れない感覚、それが苦痛でないという事を肌に覚えこまされてゆく。
「上手にしゃぶるようになったじゃねえか」
「腰振れ、そう、もっとだ」
「入れてって言えよ、欲しいんだろうこいつが」
「自分でハメてみな。ほら、穴をよく見せろ」
「中まで痙攣してやがるぜ」
「こんな体じゃあ、もう普通に暮らせねえなあ、ぼうや」
「見ろよ、イキっぱなしだぜ。止まらねえ」
「すごいな……こりゃあ生まれつきの淫売かもな」
次々と男達が入れ替わる。言われる通りに従い、したくなくても体が動く。ラムザの意識は朧だが、そこに、それを、入れて欲しい、自分はそれを欲しがっているという事だけがはっきりとしてくる。
「いく、いく、ああ、おねがい、」
何を願っているのか分からず、しかしラムザはそう何度も叫んだ。時間が泥のように被さり、やがて疲労で失神するまで性戯は続いた。
昨日と同じに、気がつくとラムザは一人だった。体中が精液で汚れて髪まで固まり酷い臭いがする。頭の中に霧がかかって世界が遠く曖昧だった。
――何があったんだっけ。
思い出そうとする。全て忘れたようだ。それでいい、いいんだ、また目を閉じようとする。が、体の奥に痒みに似た焦燥を見つけてラムザはうめいた。
――ああ。
火、火が焼き尽くす。これまでの自分が燃えてしまった。いや、これからの自分も失われてしまう。
涙が出た。声を上げて泣いた。泣きながら、ラムザは性器を手探った。
ラムザには既に時間は無かった。
何日経ったのか。ここには時間は無かった。ラムザは起こされているか気を失っているかで、それらは全て彼らの気分次第で行われる。食事の回数もまちまちで、ラムザは世界を手放しているように思った。
それでも一度、意識が鮮明になった時間があった。それは、煽るだけ煽られて放り出され、入れて、と泣き叫ぶラムザに男達がこう言った時の事だ。
「時にぼうや、ベオルブって知ってるかい?」
その時だけは男達の顔が欲情から遠い固いものになっていた。涙と涎で顔を汚しながら、ラムザはそれを認識した。奇跡のように、『ベオルブ』の名がラムザに計画の存在を思い出させた。
ラムザは完璧に演じた。彼らの問いが分からぬ振りで、犯して欲しいと泣いて縋った。そうしながら僅かずつ、自分がベオルブ当主に近しい者だと悟らせ、そして終に計画通りの日時と場所を伝えた。
聞き出した途端、男達は単なる獣となり、ラムザもまた意識を混濁させて性奴となった。
これでもう、自分の役割は終わった。
男は殺されずに戻る事が難しい、そんなダイスダーグの言葉を思い出し、ラムザは高い天井を見上げて息を吐いた。
静かだ。
ラムザは遠くに向かって耳を澄ましたが、僅かな水音以外に聞こえるものはなかった。床を洗った水を流すために部屋の端に開けた穴からその水音は聞こえる。どこか別の水場とも繋がっているに違いない。
しかしそれもどうでも良い事だった。体中が内側から火を噴きそうだから、何かで紛らわせたいだけなのだ。
苦痛よりも大きな熱。ずっと涙が止まらない。
暗く湿った石の床は冷たく自分の髪以外の敷物も無いのに、ラムザは熱のために痙攣していた。床の所々に突き出した環状の突起物から伸びる影が、笑うようにちろちろと揺れる。低い位置の灯火が、隙間風に煽られているからだ。
ぼんやりとした意識で自分の手を見つめる。じゃらり、と鎖が鳴る。それは手首にはめられた金属の輪に繋がっている。表面に皮を貼ってあるが擦れて手首に血が滲んでいる。足首も同じだ。のろり、と体を返す。熱い。大きな痙攣がくる。やり過ごせず低く声を漏らす。鎖が鳴る。
嫌だ。
嫌悪の痙攣だった。逆らえない熱さにラムザは両手で体を抱くようにしながら、それぞれの腕に爪を食い込ませた。
嫌だ。
そのまま転がる。鎖がつれて止まる。
嫌だ。
刺さった爪が、皮膚を裂きながら離れる、体を曲げ目を瞑った、涙が止まらない、手が降りて行く、そんな事を望んでいるはずがない場所へ降りて行く、嫌だ、嫌だ、嫌だ、と、呟きながら性器を握り込む、あまりにも激しい性感に悲鳴を上げ、爪先が突っ張り、開いた口から唾液が零れた。
「どうしたよぼうや。もう欲しくなったか?」
男達が入って来た。ラムザは茫然と彼らを見上げる。全員が、甲冑を纏って武具を身に着けていた。
「俺達はもう行かなきゃならねえんだ」
「後はこいつが相手してくれるぜ」
「じゃあな、ぼうや」
固い靴音が遠ざかっていく。ぽつりと残ったラムザの前に、いつもラムザの体を洗った男が残った。
「行こうか」
「……どこ、へ……?」
「おまえは可愛いからな、ちゃんと準備してやったんだ」
おいで、と手が伸びた。ラムザの中で、かちりと何かが嵌った音がした。
これで、終わる。
確信を抱き、ラムザは男の手を取った。彼は大事そうにラムザを引き起こし、腕に抱き上げた。
「軽くなったな」
階段を降りてゆく。
「おまえは本当にいい子だったよ」
灯明の数が少なくなり、やがて男の持つランプだけが灯りとなった。
「さあ、ここだ」
真っ暗な部屋だった。石をくりぬいたような粗雑な造りのその部屋の真ん中に、ラムザはそっと降ろされる。男はニつのランプに火を入れた。
鉄の輪が一つ、壁から突き出しているのがぼうっと浮かんでいる。
「おいで」
もう一度、男がラムザを呼んだ。
3ページ目(注意あり)
「全員を集めろ」
イヴァリースの西、晴れた日にはロマンダ対岸がかすかに見える海岸線にある古い砦を囲むように、ザルバッグが最も重用している隊が詰めていた。ここは『獣の巣』の構成員が情報の受け渡しを行うための一拠点であった。
この砦は五十年戦争の勃発する前に作られたものだった。ロマンダ侵攻を想定した堅牢なジークデン砦が出来てからは、忘れられて朽ちるままであった遺跡のような場所である。最近、ここに出入りする者がいるという事は付近の住民なら誰でも知っていた。が、鍬や鋤を担ぎ、『古い王朝の財宝を掘り出すのだ』と笑顔で語る男達は、単なる変わり者達と思われていた。
斥候の情報によれば、砦には一人も残っていない。それは、「獣の巣」討伐作戦が成功した現在、当然の結果と言えよう。
「は!」
周囲の警戒に散っている数名を集めるため、部下の一人が走って行く。
「ディリータ、アグネス!」
隊長のノアが振り返って二人を見つめる。はい、とディリータが駆け寄った。一歩遅れて隣に並んだアグネスは、煉瓦色の目を泣き腫らして更に赤くしている。
「突入する。案内は出来るな?」
若い、というよりは幼く見える二人がしっかり返事をするのを確認し、ノアも一つ肯く。
彼らがこの小さな石の砦を見つけたのは日が昇る直前だった。まず斥候として二人のアカデミー生が地下通路から侵入した。そして得られたのは、敵は一人もいない、そしてまた、いるはずの捕虜がどこにも見当たらない、という情報だった。それを報告する二人は顔色を失っていた。
昇りきった太陽はぎらぎらと大地を焼いたが、部隊全員が冷え切った思いで砦を見つめた。そして今、隊長が突入を宣言する。
「隠し部屋、隠し通路、あらゆる密室を探索せよ。そして敵を発見した場合、必ず捕虜にしろ。ラムザ殿の居場所を突き止める事が最優先だと忘れるな」
集まった部下達に簡潔にそう告げ、ノアはディリータとアグネスを背後に砦に踏み出した。
戦士達は速やかに階上、階下に散り、手のひら分の隙間も残さず全ての壁、床を調べ上げてゆく。ディリータとアグネスは、ラムザのものと思われる衣服を発見した部屋にノアを案内する。
「ここです」
がらんとした石の箱だった。高い窓が一つきりの部屋には床を洗った跡があり、隅に泥だらけの布が丸まっている。ノアがそれを広げてディリータに示すと、彼は唇を噛んで肯いた。ラムザが甲冑の下に好んで着ていた薄青のシャツだ。
「石牢、か」
床に埋め込まれた鉄環に眉をしかめてノアは呟く。
「ここが半地下になるんだな?」
「はい」
この砦は、散在する隠し通路から各部屋の内部を確認できる造りとなっていた。通路の一つが地下に伸びて少し離れた林の中まで続いており、斥候として潜り込んだディリータとアグネスは、その隠し通路からこの石牢の内部を見下ろし、また、他の部屋も確認していた。
「……更に、地下、だな」
戦士としての勘で彼は言った。そして部屋をぐるりと見渡し、床の一点に目を留めた。排水口だった。彼はそこまで歩き跪いた。
「隊長、」
「しっ」
ディリータを制し、彼は耳を澄ます。段々彼の頭が下がり、最後には汚水が溜まった窪みに頬を浸すようにして何かを聞いていた。やがて、ぱっと顔を上げ、いきなり部屋から走り出ようとする。
「隊長!?」
「地下がある、敵の男が一人残っている!」
え、とディリータはアグネスと顔を見合わせた。
「いいから探せ、建物の構造上、この辺りに地下へ降りる通路が必ずある!」
「は、はい!」
三人は床を叩き壁を押し、不審な突起物が無いかと辺りを這いまわった。
「無いか!?」
「ありません! 本当に敵が残っているんですか!?」
ディリータは思わず言って口を押さえる。申し訳ありません、と言い差すディリータにしかし、ノアは僅かな苦笑で答えた。
「俺は耳がいい。歩く音の重さ、その間隔で相手のおおよその体格や、自分との距離を掴む事が出来る。地下故に反響があって詳しくは分からなかったが、成人した男の足音が一人分、というのは確かだ。よって、敵の男が一人、だ」
驚きながら肯くディリータにノアは微笑み、そして二人が再び床に目を戻した時、
「……どうしてラムザが」
と、怒りと悲しみに満ちた声がした。振り仰ぐと、ぶるぶると震えるアグネスが壁に爪を立てている。
「アグネス、」
彼女はラムザに騙され、炭焼き小屋に閉じ込められていた。「捕虜役」としての暗示を掛けられていたが、仔細を聞き出すためにそれは解かれ、以後、半狂乱でディリータにしがみつくようにして捜索隊に加わり、斥候も買って出たのである。それまでの彼女を知っているディリータからは、信じられない程の勇敢さでアグネスはここまでやって来たのだ。
「どうして、どうしてなの……!」
ばりっと彼女の爪が割れた。そして獣のように一声叫ぶと彼女は辺り構わず蹴飛ばし始めた。
「お、おい、アグネス」
慌ててディリータが立ち上がり、ノアも驚いて静止の命を発する。
「やめなさい、下に響くと逃げられる、」
「嫌、ラムザがラムザが、私のせいで!」
彼女が渾身の一蹴りを壁に食らわせた。ぱらり、と壁の一部が剥がれる。
「あっ!」
ディリータが叫び、ノアがそこに取り付いた。それは壁に見せかけたドアだった。薄く張られた石が剥がれて木肌が見えている。
「よくやった!」
茫然とするアグネスにそう叫び、ノアは壁の継ぎ目に小刀を差し入れてこじ開ける。ぎい、と古びた音と共に、暗い階段が下に伸びる通路が現れた。
「残りの者を呼んで来い!」
そう言い残してノアが階段を駆け降りて行き、はっと気を取り戻したアグネスが迷わずその後を追う。一瞬固まり、ディリータはその暗い空間を睨みつけてから背を向けて副長らの声のする方角へと走り出した。
部隊の者達と共にディリータが階段を駆け降り、細い通路に飛び込んだ時、まず目に入ったのは剣を構えるアグネスの姿だった。その前方には、まさに一人の男を斬り捨てたばかりのノアがいた。
「隊長!」
「済んだ」
他愛も無い、と吐き捨てるように言ってノアは男の衣服で剣の血糊をぬぐう。
「ラッシュ!」
「は!」
副長がノアに駆け寄る。
「来い、この中だ」
「自分も行きます!」
ディリータが追いすがり、アグネスも蒼白の顔で彼らを見上げた。
「駄目だ」
「しかし!」
「待機せよ、命令だ!」
隊長はびりり、と空気を震わす声で制した。彼は最悪の事態を想定していたのだ。アグネスとディリータは唖然と後退る。
「許しあるまで全員待機せよ」
そして剣を構えたまま扉を開け、副長と共に中に消えた。
ほんの少しの時間だったはずだ。が、ディリータとアグネスには途方もなく長い時間だった。
ごとっと扉が鳴り、ゆっくりと開く。
「……!」
まず、副長のラッシュが体を半分出して扉を支える。そして、何かを抱えたノアが無表情で姿を見せた。
「隊長、」
ディリータの声が途中で止まる。
「発見した」
ノアが抱えているものは彼のマントに見えた。布の合わせから、見覚えのある金髪が覗いているのを見て、アグネスが悲鳴を上げて座り込んだ。ノアはしっかりとマントにくるんだラムザを抱き、部下を見渡して言った。
「速やかにザルバッグ様に報告せよ。弟君はご存命だと」
伝令役の兵士が弾かれたように敬礼し、身を翻して走って行く。
「ご、存命……」
ディリータが呟き、ノアは無言でディリータを見下ろす。
「帰還する」
腰が抜けたアグネスを部下の一人が支えて歩かせ、副長がディリータの肩を叩いて促す。
「……詳しい事は今は言えない。しかし、おまえにはいずれ知らされるだろう」
ラッシュはそう言い、真っ直ぐ地上を目指す隊長の後を追って行った。
僅かに開いた扉の前で、ディリータは隊長の言葉を反芻した。彼は『存命』という言葉を使った。『無事』ではなく。
何かがまだ、囚われているかのように澱んだ空気を吐き出す扉をディリータは見つめた。しかし、中に入る勇気は無かった。
それを、後悔とも罪悪感ともつかない胸を掻き毟る心残りとして、ディリータは長く想起する事になる。
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