男はラムザの手を取り、優しげに笑いながら壁際に連れて行った。そして、壁から突き出した鉄環を強く引く。ぎいぎいと嫌な音を立てて、その環は引き出された。
そして静かにラムザの手首に太い皮紐を結んで鉄環に通した。男が皮紐を引くと、ラムザはゆっくりと吊り上げられていく。やがて、ラムザの爪先は床から指一本の距離を開けてだらりと下がった。
「可愛いよ、おまえは」
男はうっとりとラムザを眺めた。身に纏うものは何一つ無く、ラムザは壁や床から立ち昇る冷気に震えていた。夏だというのに、その部屋は氷室のように寒かった。
「今までずっと、これを待っていたんだ」
男は感極まったように上ずった声で言った。
「綺麗にしてやろう」
ラムザの目がかすむ。涙が溢れる。これで、終わる、終わってしまう。その恐怖を肯定するように、男の手に銀色の光が握られた。ダガーだ。
「……あ、あ、」
「なんて可愛い声なんだ」
大勢に聞かせるような、芝居がかった調子の男の声が響く。
「さあ、綺麗にしてあげよう」
男はラムザの体をやんわりと抱いた。唇に乳首を挟み、そっと背中を撫でてゆく。
「ああ、可愛い」
「た、すけ、て、」
「綺麗にしてあげるんだよ」
「い、や、」
ラムザはがたがたと震えて助けを呼び続けた。吊られた手首の痛みよりも犯され続けた痛みよりも目の前の男が持つダガーが怖い。
男は長い拷問の間でも見せたことがない程に興奮していて、ラムザにぴったり体を付けると荒い息を吹きかけた。そうして唇が上体を這い回る間中、ダガーの平たい刃がぴたぴたと背中や胸を触っているから、ラムザは泣き声を上げ続けた。
「おまえは本当に可愛いよ」
男は言って、いきなりラムザの後口に思い切りペニスを突き立てた。慣らされて慣らされて、指ですら達したのに、ラムザには快感も異物感さえ無く、ちかり、と光るダガーだけを目で追った。恐ろしくて気を失いそうだが目が離せない。
煌めきがゆっくり移動し、見えなくなるとより恐慌が深まり、いや、いや、いや、とただ泣く。
「おまえは本当に可愛いよ」
男は言いながら涙を浮かべている。ずっと彼を気に入っていた。思ったとおりの反応に愛おしさが募って狂いそうなのだ。
「可愛い、可愛い」
呪いの言葉と共にダガーが背中に触れる。ラムザは、ひい、と高い悲鳴を上げた。男は激しく突き上げ、性感のままにダガーを滑らした。一拍沈黙し、そしてラムザは絶叫する。その声に煽られて男はより強く突き上げ、次々と切りつけていった。
浅く、深く、長く、短く。
「たすけて、にいさん!」
ラムザは初めて兄を呼んだ。ずっと堪えてきたがもう守れない。背中の皮の下を走る刃物の感覚は薄ければ気味悪く、深ければ焼けつき、ラムザの痙攣が進んで硬直が始まる。そうして動けないことが胸の内で凝って呼吸を止めた。
「にいさん、にいさん、たすけて、たすけて」
強くて神々しい兄はきっと助けに来てくれる、助けてくれると信じているから。
背中一面に血が流れている。男の唇が喜びに震える。決して死なない程度に深く口を開けた傷がたらたらと血を流し、例えば肩から、例えば腰から、例えば尻を押さえつけた自分の手から、赤い色が目に触れて男は歓喜のままに射精した。まだ足りずにその血を舐めながら動き続け、やがてラムザの体を廻して背を向けさせた。
男が、はっと息を呑んだ音がラムザの耳に入った。朧だった意識が引き戻される。
「なんて綺麗なんだ、なんてことだ……!」
男は感動に震えながら血を舐め始めた。ざらざらと肉を削って舐め上げられ、ラムザは再び叫び始めた。
「にいさんにいさんにいさんにいさんにいさん」
湿った音が大きくなる。舐めればもっとよく見たくなった男が指で傷をこじ開けたのだった。
「い、ぎい、あああああ、たすけて、」
ラムザは締められる獣のように軋んだ嗚咽を上げた。
「い、や、もう、ゆるし、て」
男はその悲鳴を天上の調のごとくに聞き、とうとう涙を流し始めた。
「ああ、素晴らしい、素晴らしい、可愛いおまえ!」
流れる血の赤は男が最も愛する色、彼の全てだった。視覚に刺激されればほじるようにして肉の味を確かめていく。
「ああ、ああ、ああ、ああ、ああ、」
二人の声が喘ぎのように部屋に充満した。
「いや、ああ、あああああははははは」
ラムザは絶叫し、そして突然静まった。やがて、ひそやかなすすり泣きが石の床の上を流れて広がっていった。
「かわいいおまえ、かわいいおまえ」
ラムザはすすり泣きながら口元に微笑みを浮かべていた。く、と時折嬌声に近い音が漏れる。男は全ての傷を丁寧に検分し、歓喜に涙を流しながら腰を打ち付け射精し続ける。
と、男がラムザの体からごぼりと音を立てて性器を引き抜いた。固い踵の音がする。誰かが戻ってきたのだろうか。ああ、せっかく二人きりなのに。
「邪魔するヤツを消してくるよ。ちょっと待っておいで可愛いおまえ」
彼にはもう敵も味方も無く、ただラムザと自分が世界であった。男はラムザに笑いかけ、恍惚とした顔でラムザも男に笑った。ぽたりぽたりと爪先まで滴っている血をうっとりと眺めて溜息を吐き、男は扉に向かった。
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