どの口で酷い人だと。
そう睨もうとしたが目など開けてはいられなかった。
「はあ、う、」
「痛い?」
二本目の指が捻じ込まれる。それは冷たく濡れているようだ。ざっと背筋に鳥肌が立つのをなんとかやりすごす。
「オイル付けたんだけどな」
ダメ? とカカシはイルカを裏返す。締まり、指の関節までがくっきりと感じられてイルカの眉が寄った。
「オイル……」
「ん。やっぱり痛いの嫌でしょう」
「あ、う、」
「あなたには、死ぬ死ぬって泣いて欲しいからねえ」
背中に胸をぴたりと付けて、カカシは空いた手でイルカをしっかり抱いた。二人は左から崩れるように斜めに横たわる。
「この辺、気持ち良くない?」
ぐっと指が内部を押す。身を縮めるイルカのうなじに、カカシの舌がゆっくりと這った。
「汗びっしょりだ。面白いね」
楽しそうにカカシは言い、抱き締める腕の力が強くなる。
「忍なんだからもっと辛い事もあったろうに、どうしてかな。セックスが絡むとちょっとの痛みで皆ひどく汗をかくよね。どうしてだろう」
皆、という言葉にイルカの眉がぎゅっと寄った。
「当たり前、です」
「そう?」
指がぐるっと内壁を撫でる。
「俺は違うよ。セックスに限れば気持ちいい時に汗が出る」
腹側をしつこく擦りながらカカシはイルカの耳たぶを甘く噛んだ。
「この辺りなんだけどな。集中してよ、イルカ先生」
カカシの指に全神経を奪われているのに、これ以上どうすればいいのかとイルカは唇を噛む。
「何も考えないで。集中して」
囁き、カカシは空いた手をイルカの顎に添えた。あ、と思った時にはイルカの視界は白い面で塞がれ、唇に舌が潜り込んでいた。
「う、ん、」
体格と同じに細長い印象の舌が歯列を舐めていく。舌の付け根をくすぐられてイルカが首を竦めると、カカシは乗り上げながら体内の指をぐっと奥まで進めた。むず痒さが背筋を駆け上ってくる。じゅるり、と音を立てて舌を吸われ柔らかく舌先を噛まれれば、全身の力が何かの術のように抜け、両手をぽとりとシーツに落としてイルカは脱力した。
たかが口付けだ。
頭のどこかでそう思いながら、喰われるような感覚に酔わされる。舌が無くなってしまわないのが不思議なくらいに吸い上げられ逆に引き込まれ、厭らしい水音と共にカカシの荒い息の音が耳の中に侵入する。体中がしびれてしまい、快感から遠いのか近いのかも分からない。体の下の方で指が乱暴に抜き差しされているらしいが、他人事のように感覚が薄くただ熱い。
やがて中から臍の周りへとゆっくりと熱が広がり、イルカは微かに震え始めた。
「う、ん、ん!」
獲物を押し潰すようにカカシが体重をかけてくる。ぐいっと奥を押されてイルカは大きく痙攣した。
「ここ?」
唇が離れ、イルカはぼんやりと瞼を上げた。途端、意思に逆らうようにして背中がしなった。
「あ!」
「ここだ」
随分と近くにカカシの顔がある。
「ね、いいでしょ」
カカシは満足そうにすうっと目を細めて笑うと、そこをしつこく擦り始めた。
「あ、あ、あ! いや、だ、」
嫌だ、やめてくれと哀願するイルカを楽しそうに眺め、カカシは新たに指を入り口に当てた。狭い壁を広げて三本目を押し込む。圧迫感に必死で身を捩るイルカの首筋に噛み付くと抵抗はすぐに止み、カカシは指をぎりぎりと奥まで進めた。
「い、た、うう、く、」
「もう大丈夫でしょ。ほら……」
指がゆるゆると後退する。やがてイルカの性感を正確に探り当てるとその上を往復し始めた。
「ひ、痛い、やめ、」
全身を硬直させるイルカを宥めるように、カカシは浅く付いた歯型を舌先で舐めた。
「ねえ」
笑いを含んだ声が粘つきながら耳の中に流れ込む。
「どうしたの」
カカシの指がイルカの性器に絡んだ。
「あっ」
「どうしたのコレ。痛いんでしょ?」
再び勃ち上がった先端を摘むようにしてカカシは低く笑った。
「ホントは気持ちいい?」
「う、ちが、あ、」
「はははー。これもそうだよね、みんな違うって言うんだよねえ。いいよ、違ってる事にしよう」
言いながらゆっくりと指が下りていく。
「イルカ先生は痛がりなんだ」
一旦袋を強く握って悲鳴を上げさせてから、カカシは根元をやんわり手のひらで包んだ。
「こんな事されて、痛くて仕方ないんだよね」
そのまま強く扱き始める。皮を引き剥がすような乱暴なやり方にイルカは声を詰まらせた。
「うあ、カ、」
「かわいそうに」
扱く動きと連動するように後口での抜き差しも速くなっていく。時折指を開くようにして解し、その度イルカは跳ねる。
「い、いや、だ、カカシ、さ、う、げほ、」
長く続く荒い呼吸のせいで喉が渇ききり、イルカは咳き込み始めた。おや、とカカシは動きを止めて見下ろす。
「吐くの? いいよ」
「いい、え、」
空咳を繰り返すイルカの目が霞む。どうでもいいから早く終わってくれ、そう念じている最中にカカシの指がずるりと抜けた。内臓を引き抜かれたような感覚に自分でも驚くほどショックを受けてイルカは息を止め、続いて反動で激しく咳き込んだ。
「あれ、大丈夫?」
ごしごしと背中を擦る手に、まさかとは思いながらも『終わり』を期待して振り返る。
「休憩、しよっか」
にっこり笑い、カカシはぺたぺたと裸足の音を聞かせて奥に行ってしまった。イルカは脱力してシーツに顔を埋めた。中にまだ何かが入っているように感じて居心地悪く身じろぎしていると、笑う気配と共にカカシがベッドの脇に立った。
「なんでお尻振ってるの? ま、いい眺めだけどね」
言いながら腿に手のひらを這わせる。
「……なんでも、ありません」
「イルカ先生、ホントに健康だよね。綺麗な肌してる」
「あ、何を、」
カカシが手に持つコップから水が滴る。塗り広げるように太腿をなぞり、ゆっくりと尻から背へと撫で上げながら、カカシはベッドに片足を乗せた。
瞬間、イルカの喉の下辺りに緊張が熱く凝った。屈み降りてくるカカシのきつく張った鎖骨や浮き出た首や胸の筋肉が、真昼の光を浴びて濃い陰影を見せながら生々しく迫り、自分達がこんな明るい場所で何をしているのかが突然身に染みたのだ。
「水、飲ませてあげる」
背後の窓から白く差し込んでいる光、近づく体温は僅かに湿りを帯びていた。反射的に逃げようとするがあっさり捕まって背後から抱かれる。カカシは水を口に含むとコップを窓辺に置き、筋張った指で頬を捕らえて水っぽい唇でイルカのそれを塞いだ。
温んだ水が喉を伝い、口の端から幾ばくかが零れた。その軌跡を辿って濡れたカカシの指が乳首を摘む。
「ここ、覚えた?」
指に力を込められ、イルカの体が軽く跳ねる。擦り合わせるように指が動く度に、くすぐったさと快感が丁度同じ分量で生まれてびりびりと臍の下まで伝わっていく。現実を強く認識した事で、羞恥と共に性感までもが高まったかのようだ。
「もう、嫌、です、そこは、」
「そうは見えないけどね」
カカシの足が絡まってじわじわとイルカの膝が開く。頭をもたげたままのペニスに指が纏わり付いた。
「う、あ、」
「滲んできてる」
片手で乳首を弄られ、先走りが滲み始めた穴の周りを指先でぴたぴたと叩かれる。う、う、と力無く抵抗の声を上げてイルカはただ頭を振った。乳首から離れた手が胸から腹へと撫で降り、再び力を持ち始めたカカシの猛りが尻に当たった。
「ね、気持ちいいって言って」
「違、い、」
両手でペニスをまさぐられ、快感に潤んで脱力した体をカカシに預けてイルカは喘いだ。
「はあ、あ、うう、ああ……」
「穴のとこ、好き? 好きだよね。俺と一緒だ」
自己完結してカカシは明るく笑った。
「イルカ先生が俺とこんな事してくれるなんて、すごく嬉しい」
ごしごしと擦り上げる動きに移りながら、イルカを仰向けに寝かせて足を大きく開く。はあはあと浅い息を吐き続ける喉を舐め上げ、カカシは片手を奥まった場所に伸ばした。
「んー。柔らかくなったね」
残っていたオイルで指は難なく入る。三本の指を押し込むとイルカは、ああ、と身震いしたがそれ以上の抵抗は無かった。
「ふう、あ、はあ、」
内部への刺激に素直に喘ぐ顔を眺めながら、カカシは掠れた声で囁いた。
「こっちの穴も好きになった?」
うっすらと開いてカカシを睨む黒い目に笑いかけ、抜き差しする手は止めずにイルカの性器から自分のものへと握り変える。
「もっと好きにしてあげる」
指でアナルを押し広げ、先端を押し当てる。イルカは絶望的な色合いの溜息を漏らして身を縮めた。
「イルカ先生、楽にしてて」
「む、無理、です……」
ほとんど泣き声でイルカは言った。
「俺も無理だよ」
こんなイヤラシイ粘膜見せられて我慢なんて出来る訳がないでしょ、そう呟くとカカシは熱い肉の中にゆっくりと沈み始めた。
「あっ、あ、ああ!」
イルカの性器を人質のように掴み締め、少しずつ侵入していく。
「痛、痛い! カカ、シ、さん! 嫌だ!」
「言うほど痛くないくせに……」
小さく左右に揺すってこじ開け、軽い突き上げを何度か繰り返すとずるっとくびれまでが入った。
「ひ、」
怯えた目を見開いてイルカは全身を硬直させた。
「入った、ね」
嬉しそうに言い、ひくつく頬を慰めるように撫でる。押し入る動きを止め、硬直した足を持ち上げて自分の腰に巻きつけると前屈みに体重を掛けて尻をベッドから浮かせた。イルカは空気を飲み込めない唇をぱくぱくと動かし闇雲に爪を立てるが、カカシは頬を上気させ、萎え始めたペニスを扱きながら小刻みな動きを再開した。
「キツ……緩めて、イルカ先生」
「む、り、あっ!」
「ダメならいいよ……このまま入れる、から」
「ひ、も、嫌、だ、」
「俺はすごく、イイ」
半分程までが飲み込まれ、熱い息を吐くカカシの唇が笑みの形になる。
「う、うう、あ、う、」
「もうちょっと……あ、そうだ」
びしゃりと追加のオイルを振りかける。冷たい感覚に、あっ、と小さく声が上がり、同時に後口が強く締まった。
「ああ、気持ちいい」
うっとりと囁きながら、荒い仕草でオイルをはみ出した自身に塗り結合部にもこじ入れる。イルカは低くうめき、強く目を瞑った。
「俺を見て、イルカ先生、ねえ俺を見てよ」
目尻に溜まった涙を指先で拭ってやるとイルカは朦朧と視線をさ迷わせた。瞬間、カカシは強く腰を突き出した。
「ううあ!」
「全部、入った、よ」
ぶるぶると震えるイルカの腹とペニスを撫でながら、カカシは満足そうに目を細めた。
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