冬枯れた木立が沈み着いたような場所で、イルカは茫然と立ち竦んでいた。
「い、嫌、だ、」
「ま、そーだろねー」
厚く積もった一面の落ち葉、赤い色は楓のせいばかりではない。
「ひ、い、こ、殺せ、」
「終わったらねー」
ぐずり、と肉を割る音がする。新しい血の臭いにイルカの額に汗が滲む。
「は、はたけ上忍……」
なにー、とカカシは頭だけで振り返った。
「……いいえ、何でも……ありません」
何を言いたかったのか、カカシの目を見つめた途端に忘れてしまった。
「そ。……あ、そうだ」
輝く写輪眼は正に血の色を滴らせている。それとはあまりにも不似合いなのんびりとした声で、カカシはイルカに指示した。
「四人ぽっち、処理班を煩わせるのもなんだからねー。俺らで処分しようか。そこら辺に集めておいてくれる?」
潰される獣のような声が低く高く流れる中でイルカは頷いた。何かしている方が気が紛れるだろうと、カカシが派手に壊した敵の死体を一箇所に置いていく。どの死体も体の一部が足りない。枯葉の間を探ってはみるが、ほとんど見つける事は出来なかった。随分遠くまで跳んでしまったらしい。
「う、ううう、ううう」
一際大きくうめき声が響く。振り返りたくは無かったが、カカシが楽しそうに笑ったのでイルカは目の端で彼らを見た。
「ひ、うう、う、たすけ、て、」
カカシの下で痙攣している敵の生き残りは十五、六といった年の頃だ。目を見開き、涙を流してイルカに手を伸ばして全身を震わせている。
「お、ねが、い、」
無駄な哀願だ。全裸に剥かれた彼は、四つ這いの姿勢でカカシの性器を尻に埋め込まれている。容赦なく突き入れる度に慣らされなかった穴から血が伝い、膝まで垂れた。幼い性器を強引に扱いてカカシは唇に笑いを貼り付ける。
「ちゃんと勃つじゃない」
少年は絶望に喘ぎながらイルカに手を伸ばす。巨木の枝に引っ掛かっていた誰ぞの足を見つけたイルカは、彼らから目をそらしてそれを引き摺り降ろした。どすん、と重い音でそれは落下する。
「ひ……」
「ほら、イった」
ずるずると肉片を運びながらイルカは死体に意識を凝らす。息遣いでカカシも達した事を悟る。ぐちゃ、とおぞましい音で体を分け、カカシは少年の背中を膝で押さえて呼びかけた。
「イルカ先生も、する?」
「……いいえ」
「そー」
少年はか細い声で泣いている。誰かの名前を呼んでいるようにも聞こえた。
「じゃ俺、もっぺんしようっと」
泣き声が僅かに高くなり、交合の音がそれに混じった。
「さて、終わり、だね」
素早く美しい印でカカシは大きな炎を作った。死体の重なりの一番上には、さっきまで泣いていた少年がうつろに目を開いて乗っている。鮮やかな動きでそれに炎を放ち、カカシはイルカの腕を引いた。
「ニオウからあっちに行こ」
肉の焼ける臭いが立ち込めたのは僅かな間、白い程に高温の炎の中であらゆる物が速やかに灰となっていく。
「早く済んでよかったね」
「……はい」
こんな事は決して珍しい事ではない。そう知っていても、イルカは目の前の男に身を固くした。
「どうしたの、怖がってるの?」
カカシはそっとイルカの体に腕を回した。
「あ、」
背後から抱かれ、イルカはぶるりと震えた。
「怖い?」
「いいえ」
「嘘。怖いんでしょ」
カカシは遠慮なくイルカの股をぐっと掴んだ。
「は、はたけ上忍!」
「やっぱり。縮みきってる」
殺してからヤった方がショックが少なかったかなあ、そんな事をカカシは言った。
「離して、下さい……」
やわやわと揉まれる感触にイルカは身を捩った。性感が無ければただうっとおしいばかりだ。
「子供だったから?」
首筋を舐め上げられる。少年をニ度も犯した性器が、再び硬く張ってイルカの尻に当たっていた。
「優しいイルカ先生」
「そんなんじゃ、ありません」
「ね、今アナタとしたい。だめ?」
イルカは拒否しなかった。イルカはカカシに指名されてこの任務に就いている。印の理解に優れた中忍が補佐として必要だったのは事実であるが、性処理の事も考えて自分が選ばれただろうとは予想していた。
「うーん、勃たないねー」
ナルトをきっかけに知り合ってから、随分とあけすけな誘いを何度も受けている。これまでは冗談でしょうとかわしてきたが、この場で逃げが効くとは思わない。
「アナタも気持ち良くなってくれないと嫌なんだよね」
「……」
「ね、里に帰ってからしてもいい?」
いいですよ、そうイルカが小声で言うと、カカシは満足そうに頷き、すっと手を離した。
「じゃ、帰還しますか」
炎は消え、軽い灰が木枯らしに舞って落ち葉の隙間に沈んでいく。
「お疲れ様、イルカ先生」
うっとりするほどに優しい笑顔だった。それが、イルカがカカシを遠ざけられない理由だ。この顔で全て強引に押し流されてしまう。同じ言葉を返せず、イルカは俯いた。
「大丈夫、俺がちゃんと連れて帰ってあげますよ」
抱えられるようにして崖を跳ぶ。着地するとカカシはイルカの手を引いた。この世ではない、どこか違う場所に引き込まれるような儚い強さに指を預けながら、イルカは崖下に視線を滑らせた。
赤い落ち葉と白く焼けた土の色。一雨過ぎれば何も、解からなくなるに違いない。
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