「そこに、お座り」
ブラスカは予定通りにソファを指差した。アーロンは困った顔でそこに座り、ブラスカを見上げる。上着から抜いた腕の肌とソファの瑠璃色との対比に、やっぱりよく似合う、と満足した。腕を組む。
「ちょっと叱っておこうか」
ゆっくり近づき触れそうなくらい顔を寄せる。アーロンは目を伏せ、その足運びをじっと見つめて俯いている。その耳元にブラスカは唇を寄せた。
「叱ってあげる」
囁く。アーロンの肩がぴく、と震える。
「そうだね、君も痛くしてあげるよ」
「ブラスカ様……」
震えるまつげを上げてアーロンは顎を上げる。その目は一見怯えているようだが、奥を眺めれば揺れている期待と欲情が見える。
「じっとしていなさい」
上着に手を掛けて残った肩を抜き、唇を押し当てる。一つ、赤い痕を付けた。
「お許し下さい……」
いつもの台詞。
「駄目だよ、許してあげない」
「お願いです……」
その後に続くのは、止めないで、という言葉だろうがアーロンはそれを知らない。怯えている、つもりだ。ベルトを抜き、胸を押してソファに背中を押し付けるとなんの抵抗もなくぐったりと横たわった。
「泣くまで、叱ってあげるよ」
アーロンは両腕で顔を覆っている。彼が好きな格好だ。怯えている事を伝えながら、よがる顔を見られないようにしている。そして同時に無抵抗を主張できるアーロンのお気に入りのポーズだ。
「さあ、どうしようか」
帷子で覆われた胸に手の平を滑らせる。そのまま腕の裏まで撫で上げ、また臍辺りまで撫で下ろす。両手で、何度も繰り返す。アーロンの息が少しずつ変わってゆくのを楽しみながら、執拗に、執拗に。
片手だけをゆっくり下げていく。ベルトを外せば簡単に紐で括ってあるだけの緩いスパッツ。剥がすためではない、その上からの感触を確かめるため臍下にゆっくり向かう。アーロンが哀しげな声を出し始める。ブラスカは微笑みながらそれを無視する。
「……悪い子だね。こんなにしていいって誰が言った?」
ただ手の平で体をなぞっているだけなのにアーロンは高ぶり始めていた。ブラスカの手の下、布越しにその強張りが伝わる。強めに擦るとあっという間に完全に上を向いた。
「ブラスカさま……」
呂律が回らなくなっている。
「おゆるし、下さい……」
それなのに頑固にお気に入りの姿勢を崩さない。
「駄目だよ。悪い子にはお仕置きしないと」
期待を裏切らないブラスカの言葉にアーロンの肌が熱くなっていく。しっとりと汗が滲み、腕の裏の最もきめ細かい肌は手の平が吸い付きそうだ。服の上から愛撫を加えながらブラスカはその肌に舌を這わせる。汗の味は甘く、同時にせつない辛さ、いっそ食い破ってしまいたい衝動を押さえて唾液を塗りつける。アーロンは忙しなく呼吸し、薄く開けた唇から赤い肉が見えている。それも舐めて欲しいのだとはもちろん分かっているが、まだお預けだ。
舐め下げ、脇下の茂みに舌を侵入させる。そんなところは駄目です、と意識を戻した慌てる声が聞こえる。脇を舐める事はブラスカの最もはっきりした嗜好を表す表現の一つ。唇で毛をひっぱり、駄目です、と言わせて濃い汗を味わうのが楽しい。それを楽しいと思える自分が可笑しい。妻にも伸ばして欲しいと言ってみたことがあった。ブラスカを本人以上に理解していた剛毅な彼女は大笑いして、何度も焼き切る内に生えなくなったのよ、ごめんなさいねと言った。彼女とは考え得る全ての情熱を注ぎ注がれたが、強いて言えばそれだけが心残りだ。ユウナが赤ん坊の頃、ふわふわした頭髪にキスをしながら、妻も生えればこんなだろうかと思ったことを、よく、覚えている。
「さあ、ちゃんと見せてごらん」
するっと腰紐を解き、じりじりと脱がせる。アーロンは少し腰を浮かせた。あくまでも本人はそれに気付いていないのが可愛らしい。ソファに上がっている足を立て、もう一方を伸ばして広げるが帷子もブーツも脱がせない。そのまま固定して鑑賞するのだ。ブラスカが少しも着衣を乱していないことが余計に煽るのだろう、アーロンは一層きつく腕を顔に巻きつけて震えた。しかし添えた手を離しても決して足を閉じようとはしなかった。
「とても綺麗でみっともないね」
ブラスカが務めて冷静な声を出すとアーロンは隠したいという表現だろうか、腰を捩る。そのおかげで秘所がより露骨に見えるようになってしまった。これがわざとでなくてなんだろう、とブラスカは笑う。なんて子だろう。
堪らずに帷子を脱がせる。ブーツも放り投げた。裸の胸を両手でぐっと持ち上げるようにして撫で上げるとアーロンはもうだめだ、と目に涙を浮かべてブラスカを見た。手の平をかすかに触れさせて乳首をちりちりとくすぐった後、片方を歯に挟み甘噛みしながらもう一方は指でつねる。
「あ、あ、ブラスカ、さま、」
少し痛いくらいの愛撫がアーロンは好きだ。全身で喜んでいる。それを続けながら張り詰めているところを膝で押すと行きそうになって大きく息を吐き、ぐっと腹筋が縮んだ。
「これだけでもう終わりかい? もういいんだね?」
顔を上げ、アーロンの息を奪いにいく。
「じゃあ、止めよう」
唇を触れさせて囁くとアーロンの舌が突き出て、かすかに。
「……嫌、です、」
ほとんど聞こえない音を拾ってからブラスカはその舌を噛んだ。口の中に引き入れると夢中で蠢く甘い肉。吸ってやると両手が首に絡みつき目じりから涙が零れた。
「そんなにしたかった?」
耳たぶを噛みにいきながら聞く。アーロンの舌はちっとも足りない、とブラスカの頬を舐め、耳に吸いついた。
「ああ、ジェクトがいたからあんまり出来なかったんだっけ」
先端が粘つき始めた高ぶりを握り、ゆっくり上下しながら聞く。大して保たないだろう、と思った途端にがくがく腰が震えてブラスカの手が濡れた。声も無く、ただ痙攣のような息が部屋に響いている。
「それなのにジェクトをこの部屋に泊めてやろうなんて、よく言えたね」
放ったものを後口に塗りつける。アーロンは恍惚として一層足を広げる。指を潜らせると萎えたはずのものがひくり、と震えて身構えた。
「全く……なんて子だろうね」
自分がそう育てたとは知っている。しかし、ここまでになるとは思いもしなかった。これは才能だ。この、自分のための才能に感謝するべきだろう。
卑猥な湿った音と乾いた風のような呼吸。対比の厭らしさにぞくぞくしながらブラスカはほとんど下履きといっていい己の前を開けた。だが乱すのはそこまで、あくまでも脱ぎはしない。アーロンは着衣のブラスカに犯される、そのシチュエーションが好きで堪らないのだから。
「あ」
触れた途端に早々と潜り込む感覚にアーロンの背中が反った。胸を押さえて押し留めながら一気に奥まで貫くと激しく鳴く。アーロンへの最初の刺激はこれぐらいが丁度いい。収まった涙がまた零れ始め、しかし傷など付くことはない。慣れきってしかし常によく締まる後口を擦り付けるようにアーロンは腰をにじらす。ブラスカはアーロンが大好きな焦らしに入って僅かに腰を回すだけ。ブラスカの腰骨に喜ぶ爪が立った。
「こら、また。ガードが召喚士を痛くしちゃ駄目だと言ったろう?」
ブラスカははんなりと動いていた腰を止めた。言われもしないのに自分の膝裏に両手を置いて、受け入れるがままのアーロンは濡れた目でブラスカを見上げた。ほとんど焦点が合っていない。かすかに顔が左右に揺れる。もっと、と言う代わりに、もうしわけ、ありません、と唇が動く。
意気込んで部屋の扉をがんがんノックする音、続いて返事を待たずに扉が開いた。
「おーい、腹減ったぜ!」
「おや。ジェクト」
のんきに言ってブラスカはジェクトを振り返った。面白いところで来てくれた。アーロンはノックの音で少し正気に戻っている。声を出さないようにがんばっているようだ。
「へー、いい部屋じゃねーかよ」
と、一歩中に入ろうとして、ジェクトはびくり、と足を止めた。さすが、ゴッド・オブ・ブリッツ。何かに気が付いたようだ。ブラスカは微笑しながらアーロンを見下ろす。さあ、どうする?
ぎし、とソファが軋む。ブラスカはジェクトに横顔を見せてアーロンの中でほんの少し動く。一番感じるところを微妙に外して軽くかき回す。必死で堪えている顔が可愛らしい。乱れた黒髪が動き、顎が上がった。
「……おい、ブラスカ。それ、アーロンか?」
「ええ、もちろん」
可愛いだろう、とブラスカはジェクトを見返った。彼は明らかに狼狽している。本人談によると経験豊富だそうだが、ベクトルは女に特化しているのだろう。
ソファを鳴らしてブラスカは少し体重を移動する。俯き加減でアーロンの腰をぐっと引き寄せた。アーロンはとうとう掠れた声を上げながら、引き寄せられるままに、ずる、と頭を肘掛から滑らせた。上がった膝を押して胸に膝頭が付くほどに曲げる。無理な角度の挿入で互いに痛みを覚え、それが更に互いを煽るのだ。ゆるして、下さい、とアーロンはしきりによがる。
「……いや、さ、飯に行こうかって、言いにきたんだ……がよ……」
「ジェクトはすぐにお腹がすきますからねえ」
くすくす笑ってブラスカは膝を外側に倒した。うんと腰を曲げながら更に足を開かれ、アーロンの喉が子犬のような泣き声を上げる。それに満足して膝裏を肩の上に乗せた。まだまだ泣かないと満足できないアーロンのために、ブラスカは前のめって挿入を深めた。最奥をぐいぐい押され、アーロンはジェクトの存在を忘れて艶やかに喘いだ。
「ひ、あっ……ブラ、スカ、さま……」
「あ……俺、さ……一人で食ってくるわ……」
ジェクトは膝を刷り合わせ、今にも逃げ出しそうになってブラスカを見た。それににっこり笑って引き止める。
「駄目ですよ、まだギルの種類も覚えていないでしょう、ぼったくられますよ」
「いや、まー、そうなんだがよ……」
自分の腹に擦れそうなくらいに立ち上がったアーロンの硬直をいきなり掴む。びくん、と片足がブラスカの肩で跳ねた。ジェクトは思わず半歩下がっている。ブラスカは非常に満足げな表情、その足首を捕らえると親指の先に舌を這わせた。唾液を絡めながら手を休めずにきつく擦り上げ、仕上げに穴をくじってやると限界までつっぱった足指をひくひく痙攣させながらまた達した。達した瞬間に失神したので声はやはり出なかった。ブラスカは脚を肩から外すと背もたれに置く。爪先をジェクトに向けながらぐっと外向きに力を入れ、柔らかい体を最大に広げる。ふくらはぎが滑り、力無く膝で曲がって背もたれにぶら下がった。もう一方はだらしなくソファからずり落ちている。挿入部が良く見える。繋がった脇から指をこじ入れても気が付かない。笑い、一番いいところを強く擦るとアーロンは目を見開き、悲鳴と共に覚醒した。ゆる、して、くだ、さい。
「……いや……お、俺が言うことじゃねーけどよ……」
「……なんです?」
視線を真下に向けて微笑したままブラスカは答える。ニ回も放ったのに萎える気配のない可愛らしいそれを撫でる。そろそろブラスカも行きたくなっていた。
「その、なんというか、」
アーロンがまた悲鳴を上げた。まず浅い抜き差しから。ソファが連続的に鳴り、掠れた喘ぎも途切れなく漏れ始めた。穏やかにブラスカは柔らかい肉壁を味わう。
「何かそいつ、い、嫌がってねえか……? ゆるして、とか言ってる気がすんだけど……」
「ああそれ、口癖なんですよ。ねえ、アーロン」
ブラスカはアーロンに微笑みかけた。きつい姿勢で唇を併せ、舌を伸ばす。ブラスカが与えるままにしていると音を立てて吸っている。赤ん坊のようだな、と思って頬を撫でていると、腰の動きが激しくなった。もっと、もっと、と熱に浮かされてアーロンはねだり続ける。ブラスカが舌を出して唇を舐めながら顔を上げると、アーロンの腕が伸びて髪に縋り、首に腕が絡まった。
「ね」
アーロンの手首を片方取り、自分の喉から胸を伝わせ更に下に降ろしながら、にっこり笑ってブラスカはジェクトを見た。立ち上がったままの部分を握らせると泣きながら擦る。自分ではもう止められないようだ。
仕上げに掛かるためアーロンの腰を浮かせて引っ張る。思い切り突き上げるために足を腰に掛けようとしたら自分で絡めてきた。ぎっちりとブラスカの腰を挟み込み、自分の性器を擦り上げ、その上まだ唇を欲しがっているその姿。
「……俺、表で待ってるわ……じゃな……」
無理もないね。足先だけでもこの子はあまりにも卑猥。
「ええ、では後で」
待ちきれずにぎゅうぎゅうに締め付けておいて、アーロンはまだおゆるしください、と呟いている。思わず苦笑が漏れる。
「こんなに喜んじゃ、お仕置きにならないねえ」
初めからそんなつもりはお互いないのだけれど。
ドアの閉まる音とほとんど同時にブラスカは先端ぎりぎりまで抜き、間髪入れずに勢いよく突き入れた。アーロンの声が止まる。息も止まっている。それを何度か繰り返してから次にアーロンの快感の中央を突く。丁度いい角度だから、ブラスカもそこに当てると一番感じる。そしてアーロンは絶叫するために息を吸い込んだ。
ホント、相性いいね、私達は。
放っておけば宿中に響くだろう嬌声を唇を塞いで飲み込みながら、ブラスカは最後の高みを駆け上がった。全く違う生き物になったように、二人で一つの醜悪な魔物になったように、どんなに繋いでも一つには成れないことを知っているように、二人は激しく蠢いた。
「ブラスカさまブラスカさまブラスカさま、」
唇の間からうわ言を繰り返す体を固く抱き、ブラスカもまた名を呼ぶ。互いにどこまでが自分の体なのか分からなくなる瞬間、先にアーロンが最大の痙攣を見せて転がり堕ち、その後をブラスカが追った。体が離れた後も、アーロンは体内に残った精液の熱さに震え、濡れた自分の手を更に濡らした。
「上手にできたね」
ブラスカがうっとりと口付けをするとアーロンは安心してニ度目の失神に囚われた。
ぐったりしたままのアーロンを風呂で暖め、ベッドに連れていくと良い時間になった。
「ご飯はどうする?」
ぼんやりと首を振るアーロンを愛しく眺め、ベッドに腰を降ろした。髪を撫で、手を繋ぎ、小さなキスをした。
「何か買ってくるから待っているんだよ」
こく、と頷いてアーロンは目を閉じた。睡魔に捕まりかけているまぶたにキスをすると、まつげが震える。開こうと努力しているようだ。いいんだよ、寝ていなさい、とむき出しの肩に毛布を引き上げ、ぽんぽんと叩いてブラスカは立ち上がった。
「おやすみ。良い子にしているんだよ」
はい、と寝言のようにアーロンは呟いた。
ご期待に添えるほどエロイでしょうか。なにやら耽美っぽくなったのであんまり実感なく。ブラスカさま至上主義の皆々様にはなんと申し上げてよいやら……し、しかし、こういう関係もあっていいかと! つーか、脇舐めてるブラスカさま書きながらせつなくなって涙ぐんでた管理人に一番問題ありです。