飲んだ帰り、カカシはイルカの住む部屋を初めて訪れた。正確には訪れた訳ではない。酒を過ごして潰れたイルカを背負って来ただけだ。
ちゃんとお招き預かりたかったとカカシは思う。そうすれば、あれやこれやといかがわしくも幸せな気分になれただろう。が、電信柱の根元に胃の中身をさらえた今日のイルカをどうこうしたいとは思わない。幾ら好きな人でも、ゲロ臭くては勃つモノも勃たないのだなあとカカシの半目は更に細くなるのだった。
イルカのポーチの中には部屋の鍵が無かった。どこだと聞けばポケットだと言う。言ったと思う。仕方なくコンクリートの上にイルカを降ろしてぐんにゃりする体を伸ばし、狭いポケットを探った。鍵は底の方に巻き込まれているのかなかなか見つからない。
ごそごそと探っていると、イルカの性器らしき柔らかい感触が布越しに触れた。鍵が出てこないんだから仕方ない。指先に触れているそれは、だらしなく伸びたイルカと同じく、何も知りません、とばかりに柔らかい。キーホルダーくらい付けておけばいいのにと、ぶつぶつ言いながらカカシは手の甲を全てポケットに入れた。イルカのポケットはカカシのものより大きいような気がした。少し大きめのサイズの服を着ているから、手が入りやすいのだろうと思う。思っても、指先どころか手の平に当たっているものは性器に違いない。嬉しいような悲しいような気分でカカシは長々とポケットの中を調べていたが、鍵らしき感触は無かった。
「鍵、無いですよ」
「ひーだりーですー」
「……先に言いなさいよ、そういう事は」
「しゅーみませーん」
左のポケットに手を突っ込む。右に寄っているから今度は性器に触れない。残念だな、と思う。じゃあもっと触りたいのか、と自分に聞いてみる。もちろん触りたいさ、と答える。それくらい、いいじゃないか。
「開きましたよ」
「あーいー」
「……分かりました、よっこらせ」
「しゅーみませーん」
イルカを担ぎ上げてカカシは玄関に入った。面倒なので靴のまま短い廊下を抜け居間らしき部屋を横切り、寝室に入って床にイルカを降ろす。
「全く、こんなに飲まなくても」
「いろいーろあってぇーえへへへへぇ」
「はいはい、靴脱がしますよ」
「しゅーみませーん」
くつろがせたイルカをベッドに乗せると、彼はぼんやりと目を開けてカカシを見つめた。
「俺をー食ってぇーいかなーいんでーすかぁ」
「食いませんよ、こんなゲロ臭いの」
「そーゆーのもいいかもぉー」
「よくねえよ」
むっとしながらカカシは言った。互いの気持ちはなんとなく伝わり合っているからイルカから言い出しても不自然じゃない。かといってこんな状態で誘われると腹が立つ。
しかし、赤く染まった頬やうるんだ黒い瞳からは離れがたかった。カカシはしばらく鑑賞しようとイルカの側に腰掛けた。途端、
「じゃ、俺が食おうっと」
言うなりイルカはカカシを引き倒した。びっくりした顔のままカカシはあっさりベルトを外されジッパーを降ろされて一物を咥えられた。
「アンタ、なんなの、アンタ!」
「ふふんへふ」
「アンタ酔ったフリしてたの!?」
「ひーはら、ひーはら」
よくねー! とカカシはイルカを引き剥がそうとしたが全く動かない。ほろ酔い具合のカカシはあっという間に勃起しイルカは喉の奥まで使って愛撫する。それら全てがやたらと癇に障り、カカシは深く考えずにイルカの頭をがつんと殴った。当然噛まれた。
「っっっ――!」
「殴るからですよ」
「うおおおおお――!」
「あーあー血がでちゃった」
先ほどまでの酩酊はどこへやら、イルカはさっさと立ち上がって救急箱を持って来た。カカシはベッドの上で悶絶している。
「あー痛そう」
「ぐおおおおおお……」
「はい、バンザイ、そして固着の術っと」
「ひー」
上忍とはいえヒト、急所中の急所から出血すれば中忍の術にも嵌る。イルカはカカシの動きを封じてベッドの上に固定した。すっかり縮んだ一物をてきぱきと手当てし、今度はイルカがカカシの横に腰掛けた。
「歯形が残るかもしれないですねえ」
「……随分嬉しそうだなっ」
「そうですねえ」
「使い物にならなくなったらどうしてくれるんだ……」
涙目で睨み上げるカカシはまだバンザイの形で固定されている。細く包帯の巻かれた局部をちょんちょんと突付いてイルカはにやっと笑った。
「俺が面倒みてあげますよ」
「……ホント?」
「それにしてもコレ、顔書きたくなりますね。縞模様の服を着てるみたい」
「何言ってるんですか、あっ、マジ!?」
イルカは胸のホルダーからボールペンを出した。
「いていていて!」
「痛いですか?」
「ボールペンでごりごりやったら痛いに決まってるでしょ!」
「それにしては」
イルカは目に見立てた点を二つ、先端に書いた。口にあたる穴からは、じっとりと液体が滲み始めている。
「よだれくってるんですけど。ホラホラ」
「……包帯を外して下さい」
「ぱくぱくしてますよー、なんでー?」
「いいから包帯を外せー! てゆーか、術解いて!」
体積を増してきた性器は窮屈そうに包帯に巻かれ、先端は赤みが強くなってきた。イルカはそれを突付き穴をこじってにっこり笑った。
「『顔』赤くしちゃって可愛いですねえ」
「はーずーせー!」
「うーん可愛い、舐めちゃおー」
「アンタやっぱり酔ってるー!? いいいい痛っ外してー!」
それから五分後、まだ終わってないのにーと追いすがる声を背中に、忍とは思えぬ無様な格好で走り去る前かがみの男が、付近住民に目撃された。
翌日、嬉々としてイルカが見舞いに訪れた上忍宅で、何が行われたかは誰も知らない。
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