授業終了のベルが涼やかに響く。
「じゃあな」
「おう」
手を振って帰って行く友人に背を向け、夜神月は二階への階段に足を掛けた。
センター試験まで残り半年を切った。現役生専門の予備校には、授業が終わった後も多くの学生達が残っている。自習室に向かう者、講師に質問に行く者、補講を受ける者、足早な若者達の間を抜け、月はゆっくりと廊下を歩く。
常に全国模試の上位に名を飾り、合格圏内のお墨付きをもらって久しい彼にとって、予備校は必須の存在ではない。限りなく完璧に近づくという目的のために通う場所であり、もはや趣味程度の意味合いしか持たなかった。
――とうとう全国トップ、か。
講師控え室に呼び出された月は最新の模試の結果を知らされた。喜ぶ講師達に照れた笑顔を作って見せながら、月は内心で溜息を吐いていた。トップを取ることなど、もっと早い時期に可能だったのだ。だが、敢えて控えていた。張り出される順位表の上では十位とトップの差はほんの数センチであっても、実際の扱いは天地程に違う。今でさえ、複数の塾や予備校が月の名を欲しがって『授業料無料の特待生』としての入学案内を送りつけてくるだけでなく、かつて資料を請求しただけの塾に在籍者として登録されてしまっている。一旦トップになればそこから降りる気がない月にとって、名前を知られているという事実を改めて頭に刻む必要がある。今回はまだ大丈夫だろうが、次回以降の結果が出てからは極限まで気を付けなければならない。
――そう、気を付けなければ。
月は腕時計を見る。土曜日の講義は十六時で終了している。
――三時間。いや、二時間半が限度だ。
今からの予定を頭に刻み、月は再び階段に差し掛かった。
「夜神くん」
呼び止める声に、微かに眉を寄せる。
「はい」
素直な生徒の顔に戻りながら月は振り向いた。
「少し時間をいただけますか」
スーツ着用がほとんどを占める講師陣の中では特例と言って良い、だらけた服装の男が立っていた。長過ぎるジーンズの裾は、今日もまた踵を潰した靴の中に巻き込まれている。よく転ばないものだと思いながら、いいですよと愛想良く答える。
「では私の部屋へ」
この予備校では各講師に『準備室』が与えられている。靴底を引きずるようにして歩く後ろ姿を追いながら、月はまた時計を気にした。
竜崎講師、担当英語、と書かれたプレートが貼り付けられたドアを開け、
「どうぞ」
と竜崎は月を手招きした。三畳程の部屋の奥には、参考書やプリントが雑然と山になった事務机とキャスター付きの椅子があり、手前のスペースは生徒との面談のためのテーブルセットで占められている。キャスターを鳴らして寄ってくる竜崎の向かいに座り、月は鞄を膝に置いた。
「夜神月くん」
竜崎は片足を椅子の座面に引き上げながら、一通の封筒をガラスの天板の上に置く。
「全国共通模試トップ、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
儀礼的にそう答えて月は笑顔を顔に貼り付ける。くだらない話だ。
「そろそろだろうとは思っていましたが」
「今回の成績を見て、やっと入試への不安が無くなりました」
謙遜と自信をバランス良く示しながら、月は封筒に目を落とした。クラフト紙で出来たA4サイズの封筒に封はされていない。
「いえ、そういう意味ではなく」
竜崎は人差し指と親指で、封筒の端を摘んだ。
「夜神くんはわざとトップを避けていましたから。いつ気が済むのだろうと思っていたんです」
え、と月は小さく漏らした。ちらりと竜崎の目に掠め見られ、月は鞄の上で拳を強く握った。
「……まさか、わざとなんて」
「わざとです。間違いありません」
顔を上げた竜崎が、大きな目を月に向けてぴしゃりと言った。突然の言葉に上手く返せず、言い訳を考える月が苦笑を見せた時、竜崎は封筒を摘んだ手を目の高さまで上げた。
「有名人になる前に、清算した方がいいですよ」
ぱらぱらと何かが封筒から零れ落ち、がた、と月の座る椅子が揺れる。
「いくら夜神くんでも、これはマズイ」
一気に速度を増した自分の鼓動に追い立てられるように、月はローテーブルに散らばった写真を凝視した。
「な……ん、で」
「この予備校は設立から四十年以上経つ伝統校です。ヘタな学校よりもずっと、『学生』というものを知っている。生徒数だけでなく教師数も減ってしまった付近の高校からの依頼で、我々講師も当番制で繁華街を巡回しているんです」
知りませんでしたか、と竜崎は一枚の写真を封筒と同様に摘み上げ、月の目の前にぶら下げた。
「これ、写りが良いですね」
三十代半ばの男に肩を抱かれてホテルから出て来る少年が無表情にこちらを見ている。男の方は少年の首筋に顔を寄せていて個人特定は出来ない。月は反射的にそれを奪って握り潰し、竜崎から顔を背けた。
「高校生とはいえ、自由恋愛は許されて良いと私は思います。しかし」
テーブルの上で写真を弄びながら、竜崎は下から月を覗き上げた。
「明らかに相手は複数ですね。しかも金銭授受がある」
何枚かの連続写真が月に向けられる。車の中で二十代後半の男が財布から紙幣を抜き、少年が受け取っている。紙幣を握ったまま男から口付けを受けている顔はやはりカメラの正面にあり、良く判別出来た。呆然とそれらを見つめる月に、竜崎は淡々と言う。
「夜神くんのご父君は警察庁の方ですね?」
写真を握り潰したまま天板の上で固まっている拳の上に、無造作に集めた写真を振り掛けるようにして投げて寄越す。
「色々と面倒になるでしょう。今日を機会に止めることをお勧めします」
「……これは、」
「どこにも報告していません。今のところは」
俯いていた月がぱっと顔を上げた。
「竜崎先生」
「いいですよ、内緒にしましょう」
事も無げにそう言い、竜崎はキャスターを鳴らして月から背を向けた。
「今後もしっかり勉強して、志望校に入って下さい」
無言で月は写真を掻き集め、封筒に入れると鞄に押し込んだ。立ち上がれば膝が震える。確証を得るまで何度でも口止めをしたかった。が、無様な姿を晒せる程、月のプライドは低くは無かった。
「先生のおっしゃる通りにします」
それだけ言い、月はドアに向かって歩き出した。
「ああ、夜神くん」
振り返ると竜崎は顔だけを月に向けていた。丸い物をその顎の辺りで軽く振っている。
「これは、入学祝いに差し上げますので」
考えるまでもなく分かっていたことだった。が、ちかり、と光るディスクに月の背筋は凍った。
「……失礼します」
会釈をすると月はドアを開けて廊下に出た。途端、視界が回って壁に手を突く。
「く……」
手の上に額を置き、月は喘いだ。
――落ち着け、落ち着くんだ。
目の端で腕時計を見ながら唇を噛む。
――ともかく、今日は断るんだ。それだけでいい。
深い息を繰り返しながら、月は鞄を探って携帯電話を取り出した。
何も理由などは無かった。
毎日学校に行き予備校を経由して家に帰る。繰り返される生活に理由は無く、それと同じに繁華街を漫然とうろつくことにも理由は無かった。
きっかけは講師の急病だった。休講となった時間を自習に充てる気にもすぐに家に戻る気にもならず、月は足の向くままに最寄駅を通り越して繁華街に向かった。目的も無く一人で歩くというのは久しぶりで、目に映るものを単純に楽しみやがてゲームセンターを見つけた。手持ちの小銭分だけ、と幾つかのゲーム機を触り、最後のコインが尽きて画面に『CONTINUE?』と大文字が浮かんだ。あっさりと席を立とうとした時、横から手が伸びて追加のコインが軽い音を立てた。
対戦しようよと笑う男は、月の目からはゲームセンターには不似合いな年齢に見えた。しかし特に断る理由も思いつかなかったので何ゲームかを遊び、誘われるまま食事に行った。その日はそれで終わったが、食事の合間に男は遊びの続きのように月の携帯を奪い、自分宛にメールを送信した。
一週間程して男が連絡してきたのは丁度講義が終わった時間、やはり断る理由が無かった月は先だってのゲームセンター前での待ち合わせに応じた。
その日、ホテルの鍵を見せられても動揺を感じなかった。
ベッドの上で男に体を弄られながら、母親に臨時の補講で遅くなると連絡を入れた。悪い子だね、と囁きながら男は当たり前のように淡々とことを進めた。
男に組み敷かれ犯されながら月が感じたものは、落胆、それだけだった。同性に抱かれるという稀な経験の最中にさえ、大してショックも受けずに冷静でいられる自分に。少しは何かが変わると思ったのに、そんなことを考えながら男と別れて帰宅した。遅くなった息子を心配して玄関まで出て来た母の顔を見ても、罪悪感どころか気まずさの一片すら覚えない。常には無い鈍痛が下腹部に残るだけで、月はがっかりしながら布団を被った。
後日男に教えられたことだが、あのゲームセンター周辺はある種の発展場だった。一人で遊んでいる男は相手を探していると見なされる。知らなかったと言う月に、まさか偶然だとは思わなかったよと男は笑った。そう言われれば、確かにあのゲームセンターの中は通常大半を占めるはずの十代の若者はむしろ少なく、白髪交じりのサラリーマンなど場違いの者が所在無さげに麻雀ソフトをいじっていたりした。
数ヶ月後、最初の男が転勤して関係が切れると、月は数人の男達と同時進行で『付き合い』を始めた。小銭を使いながら待っていれば男は勝手に寄って来る。身なりが悪くない者を選び、彼らの目を盗んで名刺を手に入れればそれでもう、月の勝ちだ。
もちろんこんなことは大して面白くもない。しかし女相手とは違って機嫌を取ることも奢る必要も無く、慣れた男達は月の体から容易く快楽を引き出す。怠惰な惰性と性欲に基づく関係は、退屈に膿んでいる自分に似合うと月は思っていた。
だが、事態は一変した。
彼らとの関係を断ち切るのは簡単だ。メールアドレスを変更し、あの界隈に足を踏み入れなければいいだけだ。自分自身の情報は、アドレスの他は一切与えていない。
ただ、一人だけ、それだけでは終わらない者がいた。
――すぐに、全てのデータを処分しなけばいけない。
家に帰ると早速予備校のサーバーに侵入し、竜崎のファイルを見つけた。が、共通ファイルの中にそんなデータがあるはずもない。LAN経由で竜崎個人のパソコンへの侵入を試みたが、パスワードだけではない強固なセキュリティが掛かっていて不可能だった。
――生体照合……。
舌打ちし、月はマウスを投げ出す。サーバーごとクラッシュさせる程度なら出来そうだがそれでは解決にはならない。あのディスクが今、パソコンに入っている確率は……。考えても無駄に思える。
我ながら焦っている。冷静になれ、今何かが起これば、夜神月が動いていると竜崎に分かって警戒される。
風呂に入れと母親が呼んでいる。すぐに行くよと答えて月は立ち上がった。と、こつり、と爪先が何かに当たった。机の下を覗けばガムテームが落ちていた。数日前から本の整理をしていて、ダンボール詰めをした名残だ。拾い、それを見つめる。
――あいつは一筋縄ではいかない。
優秀な講師陣の中でも、竜崎の分析力は抜きん出ている。この予備校に勤めるようになってまだ二年目の新人だが、初年度から東大入試問題を三割的中させて皆の度肝を抜いた。生徒個人に対するフォローも的確で、外大志望の生徒ならば三ヶ月あればニランク志望校を上げられると言われる程だ。彼がどんな服装をしていようとも、学長から父兄まで何も言わないのはそういった功績の確かさに拠る。しかも、英語担当となってはいるが、理数系科目ならば全て教えられる実力を持っているらしいとも聞く。
何度か個人的に指導を受けた感触からも、竜崎の知能の鋭さには月も一目を置いている。
――まさか『敵』になるとは思いもしなかった……。
頭脳戦では勝てないかもしれない。いや、それ以上に策を凝らして回りくどく絡め取っている時間は無いのだ。今すぐにデータを消去させなければならない。
「お兄ちゃーん、お母さんがツノ出しちゃうよー」
妹がドアの外から風呂の催促をする。
「ああ、うん、すぐ行く」
ガムテープを鞄に押し込み、月はクローゼットを開けた。
講義を終え、竜崎は『準備室』に戻った。個人指導のプログラムを組むべく、予備校内部の成績表を十枚程積み重ねる。それと最新の実力テストの結果を照らし合わせながら問題点を抽出する。与えられる資料はどの講師も同じだ。同じデータから何を読み取れるか、講師の質を決める要素の大部分がそこにあると竜崎は思っている。
二人分のプログラムを仕上げたところでノックが聞こえた。どうぞ、と振り返らないまま竜崎は答えた。
「失礼します」
顔を上げプログラムシートを手から離すと取り澄ました声が聞こえた。
「竜崎先生、少しお時間をいただけますか」
良いですよとキャスターが滑る。が、竜崎が体を回す前に何かが口を塞いだ。背後から引きずられて椅子から突き落とされ、背中に膝が乗って両手を背後に回される。
「鍵は閉めました」
今度は腕にガムテープが巻き付く。竜崎は肩で体を支えて振り返った。
「乱暴ですみません」
にこり、と月は笑った。び、とまたテープを伸ばす。
「お願いがあるんです」
腰の上に座って身動きを封じ、両足首もテープでまとめていく。
「う!」
「分かるでしょう? あのディスクが欲しいんです」
「ぐ、う、」
「ディスクだけではなく、全てのデータを消去してもらえませんか。バックアップ、取ってありますよね」
起き上がろうとする竜崎の首を押さえ付け、月は無感情に言葉を投げた。
「もちろん、タダで、なんて言いません」
髪を掴んで引きずる。座っていた椅子に竜崎の頬を押し付け、肩辺りと座面をぐるぐると巻き留めた。
「今から先生をレイプして写真を撮ります。それと交換ということでどうでしょう」
「ふ、う、う!」
「大丈夫ですよ、気持ち良くしてあげますから。そうじゃないと良い写真にならないしね」
月は事務的な流れる動作で竜崎の腰に手を回し、ボタンを外していく。
「ベルトしてないのか。いつもずり下がってる訳だ」
淀みなく下着ごとジーンズを膝まで降ろし、陵辱者は観察するように竜崎を見下ろした。
「痩せてるね」
つうっと背骨から尾てい骨まで人差し指が辿り、追い越していく。
「……へえ……意外」
感心したような呟きと共に後口に指先が乗り、びくり、と竜崎は体を揺らした。
「少し角質化してる。男、知ってるんだ?」
月は肩に掛けたままだった鞄を床に降ろして中から幾つかの物を取り出す。竜崎は可能な限りに首を捻り、大きく見開いた目で彼の動きを追っていた。
「ゼリーを使うからちょっと冷たいよ」
竜崎は椅子ごと激しく体を捩った。しかし抵抗は背中に置かれた片腕で簡単に殺され、濡れた指があてがわれる。
「ふ、ぐう、」
「……やっぱり。簡単に入った」
二本の指が内壁を圧迫する。
「そんな必死に目を開けてなくてもいいよ。初めてじゃなくても優しくするから」
舌が耳の後ろを這い、ぬるぬると指が動き始める。竜崎は椅子を持ち上げ大きな音を立て、舌打ちをしながら月は後頭部を掴んで座面に押し付けた。そのままじっと待っていると、何度か体を揺すった後竜崎は動かなくなった。手を離すと鼻から抜ける深い呼吸音が部屋に流れた。
「もう諦めろよ、僕は止めない。目を閉じて気持ち良くなっていればいい」
「う……う、」
手を前に回し、きつく握って擦り上げると背中が力んで椅子ごと前に進む。むしるように性器を掴んで自分に引き寄せ、月は指を増やして捻るように中を探った。
「ここ?」
手のひらに集まり始めた熱がそれを証明していた。腹筋を緊張させる様子を観察し、月は素直な感想を口にした。
「『される』のに慣れてるな」
完全に勃起したと確認すると、床に置いてあったデジタルカメラを取り上げた。
「穴の中、撮ってあげようか」
自分のは見たことないだろ、と、鈍く光る薄い銀色のカメラを向ける。
「どこまで写るか楽しみだ」
指でこじ開けられた場所をフラッシュが照らす。竜崎はこめかみに汗を伝わながら月を凝視していた。
「ふう、う!」
「もう我慢出来ない? じゃあ入れようか」
ジッパーが開く音が無機質に響く。竜崎の視線を楽しむように、月はポケットからコンドームのパッケージを出すと口を使って開け、見せ付けるように緩慢な動作で装着した。そしてもう一つ潤滑ゼリーの袋を破り、中身をたっぷりとゴムに絡めた。
「力抜いて」
「ううっ、う!」
シャッター音が続く。二本の指でこじ開けられた後口は、淡いピンク色のゴムに包まれたペニスをゆっくりと飲み込んだ。
「ユルイな。でもすごく締まる」
足りない酸素を求め、必死で鼻から呼吸する竜崎は小刻みに揺れた。
「うん、いいよ先生。もっと腰振って」
意地の悪い声に竜崎は頬を引き攣らせた。じっとりと腰を摺り寄せ、馴染ませるような円運動に移行する。
「ぐ……うっ、う、」
「もう解れてきた。本当に慣れてるんだな」
椅子を机に押し付けて固定すると、月は緩やかに抜き差しを始めた。結合部から大量に含まされた潤滑剤が零れ、腿の内側を流れていく。キャスターが耳障りに軋み、腰を打ち付けながらもシャッターを押し続ける月の下で、竜崎は空気を求めて何度も喘ぐ。
「う、ん、んん!」
「撮りにくい……」
いきなり性器が引き出された。息を止める竜崎と椅子からガムテープが引き剥がされる。リノリウムの床にうつ伏せになり、膝を立てさせられながら竜崎は首を巡らせて月を探した。彼は高く持ち上げた尻の下に屈み、先走りに潤む性器越しに竜崎の顔を撮っていた。
「喜んでるのが丸分かりだ、その目」
成す術も無く荷物のように転がる体を見ながら月は唇を歪ませた。足を吊り上げ剥き出しになった場所に再びペニスを押し付ける。抵抗無く受け入れながら竜崎は一声大きく唸った。
「イクところもちゃんと撮ってあげる」
ガムテープの千切れる音、足首を解放し足を開いて膝と腿を折り曲げ留め付ける。左右共にそうやって拘束した後、抜き差しは再開された。覆い被さる月はカメラを床に置き、竜崎の性感を煽ることに専念した。激しくなる動きに潤滑剤が泡立ちながら床に零れていく。先端から根元までを一気に押し込まれ引き抜かれながら、竜崎は全身を細かく震わせた。
「中、すごく締まってる」
軽蔑、そして欲情の高まりに上ずった声で告げ、月は軽く眉を寄せて見下ろした。睨み返そうとする竜崎の視線は揺らされるままに上下に流れ、やがて焦点が合わなくなる。うめくことも止めた口からガムテープを剥がすと、ひゅう、と喉を鳴らして空気を飲み込んだ。
「大丈夫?」
僅かに視線が動いて月に定まった。瞬間、フラッシュが青ざめた顔を照らす。
「繋がってるところと顔、並べて撮れた。柔らかいね、体」
トレーナーを捲って乳首をきつく捻ると竜崎は顎を上げた。月は笑い、いけよ、と呟く。押し潰すように前立腺を摩擦すると限界まで背中が反った。
シャッター音が何度か続く。数回叩きつけるように揺らしてから月は動きを止めた。
「良かったよ、竜崎先生」
引き抜きながら言いコンドームを外す。手早く辺りの物を拾い、竜崎に巻いたガムテープも引き千切って何一つ残さず鞄に収めた。
「明日、また来ます。それまでによく考えておいて下さい」
行為が終わって数分、まだ下肢を震わせている竜崎をスニーカーが跨いでゆく。
「先生」
痙攣する瞼をこじ開け、竜崎は月を見た。
「後ろだけでイクとは思わなかったよ」
笑い声だけを置いて、月は出て行った。
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