「ど、どうしたんだ、御手洗! 君に理解できない事なんかあるのか!?」
「……君にはやっぱり何らかの荒療治が必要だね」
「そんなことはいいよ! 何なの?」
「ちょっとね……。予想が外れるってあるんだね」
「普通だよ! で、なんの予想?」
「あれだよ。所構わず可笑しな音を鳴り響かせる上に、僕の脳波を乱す小さなプラスティックの箱さ」
「……」
「その内に、動くモノが入ったり、人間をカーナビにしたりするぜ、きっと。正にパンドラの箱だね」
「……」
「ケータイだよ! 携帯電話!」
「ああ……。それがどうしたんだ」
「覚えていないかい? 僕が喫茶店で教授した話」
「沢山ありすぎて覚えてないよ。二度と行けない飲食店は三十四軒だってことは覚えてるけど」
「そういうくだらないことに脳細胞を消費するのは止めたまえ。君の場合、使えば減るんだから」
「……」
「学会で発表しようかな。「サンプルIの知能指数と脳細胞数における反比例係数の考察」とか」
「……」
「なんの話だったっけ……」
「携帯電話!(泣)」
「そうだったね。あの時僕は確信していたよ。人間はそれほど間抜けではないってね。人類ってやつは、じゃんじゃん音を鳴らして他人のプライベートを侵害する、あの黒くてつやつやした厄介な音声伝達器を持ち歩くような愚かな生き物じゃないってね」
「黒電話じゃあコードが邪魔だもんね」
「そういうことじゃない……。疲れたよ、僕は」
「いいから続けてよ!」
「そんなに過労死したいなら、いっそ公衆電話を背負って歩けばいい、とか言った記憶がある」
「爆笑して言ってたね」
「もう、笑えないね……」
「そうだね。僕も昨日買ったんだよ


「今すぐ解約しろー! ぴりっとでもそいつを鳴らしたらもう絶交だー!」
「大丈夫だよ、メール着信はあゆの新曲だから。電話はプッチモニだし」
「(声にならない悲鳴)……・君、幾つになった?」
「うるさーい! そんなくだらないこと覚えていられるほど、脳細胞が多くないんだよ!」
「言うね……(激鬱)」
「紅茶でも飲む?」
「うん……濃い目でね……」
「味なんか分かんないくせに。(あゆの新曲を鼻歌しながらキッチンへ)」
「……遠くに行きたい……」
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