眠れなくなったブラスカはジェクトの部屋に行くことにした。正確には目的も理由も無い。
ここはミヘン街道旅行公司。チョコボイーターを倒した礼とかでタダで三部屋貸してもらえた。久々にプライベートを満喫しようと思い、風呂上りにぼーと髪を拭いていたらなんとなく寝そびれた、それだけのこと。こういった単純な眠れぬ夜でも、アーロンを訪ねれば深刻な顔で「お辛いのですか……?」などと言われてしまう。それは正直いってウザい。ウザいものは召喚士でもウザい。例え可愛い可愛いガード相手でもウザイ。とりあえずジェクトなら、お得意の家族やブリッツの話で他愛なく時間を潰せるだろうと思う。それにジェクトは大概宵っ張りだ。まだまだ起きていることだろう。
ノック。おう、と返事。私だよ、と言って入る。
「なんだあ、一人が寂しくなったかよ」
「そうなんだ。パパ、お話して」
「まったくよう、どいつもこいつもガタイだけは一人前でさっぱりガキっぽくてかなわんね」
その「どいつ」の筆頭が言うか、と苦笑しながらブラスカは部屋の中央の椅子に座る。丁度向かい合わせになる位置のベッドにジェクトは腰掛けた。
「よー、今日のチョコボなんとかは中々面白かったな」
「ああ、あれはケッサクだったね」
モンスターがどうの、ではなく、アーロンがケッサクだった。片手にチョコボを握り締めたチョコボイーターがもう一方の腕で狙っているにも関わらず、あああ、チョコボが〜と半泣きで向かっていき、一打撃に付きいつもより多めのダメージを食わせまくってあっという間に倒した。そして、ちょっとだけ怪我をして蹲っているチョコボを抱きしめ、
「ケアルを〜、ブラスカ様、チョコボにケアルを〜」
二人でマネして大笑い。
「あは、あは、あは、あの後、とっとこ走って行くチョコボを見送りながらアーロンたら!」
「ああ〜良かった〜、元気でな〜! だとよ!」
「泣いてたね! アレは絶対泣いてた!」
「あー、ぜってー泣いてた!」
当分からかいのネタには不自由しない。二人はひとしきり笑ってふう、と息をつく。
「あいつはイイなあ、実にイイなあ。面白れえ」
「うん。可愛いだろう?」
「あー、なんか、意地っ張りなところとか俺のガキに似てるねぇ」
「へー、じゃあ君にも似てるのかな?」
「けっ、似てるもんか。俺様はジェクト様だぜ!」
全く理屈が通らないが、なんとなくブラスカはそうだよねえ、と頷いてしまう。
「じゃあ、ちょっとイタズラしたくなる?」
「イタズラぁ? なんだそりゃ」
「だめだよ、あの子を食っちゃ」
「食わねー食わねー、固くってよぉ、食えたもんじゃねえって」
「ふうん」
「あんだよ?」
「バージン攻略、なんてジェクト、好きそうだなあと思って」
「
ばーじん! なんか余計青くさそう……」
「まあ、青くさいのは仕方ないね……」
「おやおや、しょーかんし様がそんなはしたないこと言っちゃって」
ジェクトはうーん、と腰を伸ばしながら立ち上がった。
「んじゃ俺、青くさくせんずりカイて寝っから、しょーかんし様もお部屋に戻ってねんねしな」
「やだやだ、まだ眠れなーい」
「だだこねてっと手伝わせるぞ」
軽く言ってジェクトはふふん、と鼻を鳴らして見下ろした。まさかしょーかんし様に、にやーと笑い返されるとは思わなかったのだ。
「手伝って、アゲルよ?」
ブラスカは召喚士の装備は解いて、少し緩めの黒のアンダーウェアと、薄青のスピラでは一般的なズボンのようなものだけ。軽装に妙に心が躍る。躍ってんのか、俺、とか思う。ユウナとは似ていない薄い金色の髪が胸まで垂れて揺れている。奇妙に纏わり付く蒼い視線。
ヘン。なんか、このブラスカ、ヘン。ジェクトは一歩にじり下がる。
「あー、だめだめ。そんじょそこらの技術じゃ、このジェクト様はイカせられねぇ、ってー! ベルト触ってんじゃねー!」
「まあ、試してみなさいって」
「ぎゃー!」
「何がぎゃー、ですか、失礼な。大人しくしてらっしゃい」
相手がHP激低召喚士だけに、どう抵抗していいかわからない。先ほど一歩後退ったことでベッドに膝裏が当たっていたのも悪かった。ちょっと体重を掛けられただけで、ジェクトはうわあ、と言ってスプリングを背中に受け止めた。
「悪かったよー! 俺が悪かったからヤメテー!」
「そんなばーじんみたいな事を言うと燃えますよ」
「お尻の穴だけはイヤー!」
「うーん、余裕しゃくしゃくってところですね。いいでしょう、泣かせてあげます」
マジで!?
ジェクトは圧し掛かってきたブラスカを必死で両手で押し返した。しかし召喚士様の美しい蒼い目は据わっている。邪悪だ……邪悪の目だ……そんなことをジェクトは考える。風呂上りでラフな格好、ブラスカは大変手際良くジェクトを丸裸に剥き、ふふふ、と笑った。確かに笑った。
「イイね。立派だね」
「おがあさーん!」
「泣いたって誰も来ないよ、ふふふのふ」
うわーん、俺、こんなの初めて……
ジェクトはいつもは使わない部分の脳をフル回転させて考えた。この状況を打破するには、打破するには……
「わーかった、ブラスカ! 俺がヤル! ヤってやるから場所を代われ!」
「いやだね、私がしたいんだ」
「こんな髭オヤジに勃つのかよー! しんじらんなーい!」
「馬鹿だねえ、好みは人それぞれなんだよ」
さわっ、とブラスカの指がジェクトの立派なモノに触れた。くすくす笑いながら、いかにも弄ぶ、といった風情でブラスカは触感を楽しんでいる。いや、食感を。ホンモノだ……コノヒト、本物だったんだ……
妙に慣れているブラスカの舌を意識しながらジェクトは色々なものに謝ってみた。遠征の時、ニョーボ恋しさにちょっとヤってしまった酒場の女とか、息子に似ているのでなぜか買ってしまった男娼とか、そうそう、アーロンの尻の形がイイなあ、なんて思ったことあったっけ……ああ、俺ってホント、罪深い男でした、許してください、えぼんの神様!
「イイ体だよねえ。この腹筋! ほれぼれしますねえ」
顎が疲れたのか、口を離してブラスカは上目遣いにジェクトを見た。にっこりと目が合う。ああ、もうだめ……勃ってきちゃった……コノヒト、上手。ジェクトは脱力した笑顔で答える。
「そんなに嫌かい?」
大げさにがっかりした風にブラスカが言った。ここはお断りの最後のチャンス、ジェクトは丁寧に言ってみた。
「ええとな、あのな、アーロンの方が美味しいと思うんですが!」
「そうですかねえ」
「ぜってーそうっす!」
ブラスカは思案するようにジェクトのいよいよ立派になったモノの頭を人差し指の腹でくりくりと撫でた。
「……こっちがイイや!」
「ブラスカぁ〜!」
「あのね、ジェクト。ホントに嫌ならもっと早い内に殴ってでも止めさせないといけないよ。それをしなかったから、君の負け」
ブラスカは少し悲しそうだった。そう見えてしまったのでジェクトは負けを認めた。実際、その通りだ。なんだかんだ言ってここまで断り切れなかった自分が悪い。
「……わーった! 好きにしな!」
「ホント!?」
嬉しそうなブラスカ。そうだよなあ、こいつはニョーボ亡くして男手ひとつでユウナちゃん育てて、その子置いてモンスターと戦ったりしてんだもんなあ。俺の穴一つで紛れるんならそれもいいか……なんてジェクトは思う。
「じゃあ、入れちゃいましょう」
はやっ!
しかし最早、後戻りは出来なさそうだ。さよなら……と、ジェクトは何者かに別れを告げた。ブラスカはさくさくと自分の服を脱いでベッド脇に放る。ジェクトは天井をぼーと見ていた。霞んでいるような気がする。せつないなあ。
影が降りて来る。
「ちょっとだけキスしていいですか?」
ブラスカが被さって、ジェクトは素直に彼の背中を抱いた。零れる金髪をかき上げてやる。でも後から後から零れてきて、ジェクトの視界は金色になった。ブラスカはジェクトの頬を挟んで静かに目を閉じて唇を併せてきた。少し外れる。ジェクトは半ば自棄になってサービスとばかりに舌先でブラスカを誘導した。やっぱり嬉しそうにブラスカはその舌を追い、ねっとりと絡めてきた。吸盤付きみたいに吸いついて、どこまでが自分の舌だか分からなくなるようなキス。ジェクトの頬に唾液が伝い、最後に髭を引っ張るようにして唇が離れ、舌先が流れた唾液をちょろちょろと舐め取った。顔中に広がっていた髪がくすぐりながら遠ざかる。
「髭ってイイねー!」
何をそんなに感動しているのか、顔を輝かせてブラスカは言った。
「そーか?」
「ジェクトだってすぐに分かるのがイイよ!」
「そか。良かったな」
ブラスカは、うん、と言うと体を起した。改めて見ると、その肉体はそれなりに鍛えられ、無駄のない形をしている。もちろん筋肉は薄いが、その分敏捷そうで侮れない感じがする。ジェクトは思わず腕を伸ばして鎖骨辺りを触った。肌はすべらかで、厚い召喚士の装束の下で焼けず、艶かしい白い色を保っている。つー、と指を滑らせて臍まで下ろすとブラスカは気持ち良さそうに目を閉じた。
ええい、この際だから楽しまねえとな!
ジェクトは指を更に下ろし、なかなかどうしてなブラスカのモノに触れた。ブラスカはびっくりして目を開け、しかし、にやーと笑うとその手を取りあげた。
「触る? ふーん、触りたいんだね?」
「うー。まあ、そんなとこ」
「あはあは。でも今はだめだよ、もう入れたい。後でさせてあげるよ」
「はあ……そうしますです」
「じゃあ、濡らしましょうねえ」
そうくるよな、そうくるよな。ジェクトは観念して目を閉じた。ブラスカが太腿から降りてジェクトの足の間に座り、まずはご立派なままのモノを掴んだ。口に含んで舌を絡める。出させてそれを塗る気かも、とジェクトは自分の手順を思い出してイメージトレーニングを開始した。ジェクト様ともあろう者が、みっとも無くイタがったりしたくねえからな!
「入れます!」
へ? 先っぽしかお舐めになっていないのではありませんか?
顔を上げるとすぐさま、ブラスカは勢い込んでジェクトの足に体重を掛けた。
違うっ! 濡らすとこが違ーう! いくらちんこが好きだからってそれはだめだあ!
「あほかー! 入らねーよ! それじゃー!」
「ダイジョブ、ダイジョブ、慣れてるから」
「ぜんっぜん、ダイジョブじゃねー!」
しかしブラスカは起き上がるジェクトをぐいっとシーツに押し付けた。にっこり笑う顔はOD状態のシヴァより壮絶な冷気。零れ落ちる金髪がダイヤモンドダストのようにジェクトの顔に降りかかった。
「じっとしてないと、コワイですよ?」
「……はい」
にっこり笑顔のこの凄まじい迫力がどこから来るのか分からないが、とにかくジェクトは従った。従っていないと大流血の惨事だ。ああ、優しくしてね……
「……うんっ」
「ブラスカー!!! 何してるー!」
「見て分からないかいっ……がんばって入れてるんだよ!」
「待てー! 無理無理無理、それじゃ無事に済まねえってー!」
「放っておいてくれ! これっきりなんだから、イタイ方がいいんだ!」
「なんだよ、なんだよ! おめえ、そういう趣味か!?」
「なんっ馬鹿っ! 黙って、あっ、」
ジェクトが本気を出せばブラスカなど軽い荷物だ。ジェクトのご自慢のモノを掴んで必死で自分の中にねじ入れようとしていたブラスカは、体を起したジェクトの両腕でひょい、と持ち上げられ、背中をシーツに押し付けられた。
「オメーは馬鹿か! アホか!?」
「アナタ、腐っても召喚士に向かってなんてことを」
「腐っても、とかゆーな、馬鹿!」
「続きしようよー」
大人しくブラスカは哀願した。両手を伸ばしてジェクトに縋ろうとする。
「ちゃんと出来るから。ね、しましょう、ジェクトさん」
「もうさせねー!」
差し出す手を払い除け、怒髪天を突くジェクトにブラスカは黙った。ふう、と溜息を吐き、腕をベッドに預けてそっぽを向いた。
「……楽しかったのにな……」
「ナニがじゃ、ボケ!」
「……悪かったよ。……ごめんなさい」
ブラスカはもぞもぞと動いてジェクトに背中を向けた。髪が広がってブラスカの顔は見えなくなった。ジェクトも溜息を吐き返して頭をごりごり掻いた。
「ごめん、ジェクト」
「もういーって」
「これからもガード、続けてくれるかい?」
ブラスカはうつ伏せたままもぐもぐ言った。ジェクトは答えずにブラスカの背中を見た。少し震えている。白くて割と筋肉もあって、綺麗な背中だった。想像よりも沢山の傷が残っていて、でもそれは綺麗だった。そっと手を伸ばして撫でてやる。ブラスカはただ、大人しい。
「泣いてんのかよ」
「いいえ」
「馬鹿ヤロー」
「ハイ」
「返事すんな!」
「……」
本当に泣かせてしまったようだ。そういうことじゃねえ、ねえんだよ。
「えーと。あのよーブラスカ」
「……」
「俺がしてやっからそれで我慢しろ。な?」
返事は無い。
「オメーが無理やり嵌めると折れるっつの」
「……そうなのかい?」
「んな、ぐりぐり押し込んでも無理に決まってらあ」
「……昔はアレで入ったんだけどなあ」
「何時のことだよ、ったくよ」
「んー、十年くらい前かな。結婚する前だよ」
「ふーん、しょーかんし様、男とヤってたのかあ」
「悪かったね!」
肩を持ち上げるようにして仰向けにする。ブラスカは嫌がって両腕で顔を覆ったが、それ以上の抵抗は出来なかった。引き剥がして間近で顔を見れば、やはり泣いている。
「泣いてんじゃねーよ。してやるから、な?」
「ううー、もういいですー」
「俺が良くねー!!!」
まだ上を向いている一物を指差してジェクトは鼻息を噴出した。
「ヤルったらヤル! ぐっぽり突っ込んでやる!」
ブラスカは泣きやみそうで、また泣き出しそうで、ジェクトはカンカンに怒りながら足を開いた。指をまずブラスカの口にぐいっと差し込んで舐めさせ、それを無茶した場所に入れる。怒りながらできるだけそっとした。
「だー! 血ィ出てるじゃねーかよ、血ィ! 俺様の不首尾みたいじゃねーか!」
「痛いよー、ジェクトー」
「ヤメねー、ヤメねー、ヤメねーからな! 泣け!」
「うん。突っ込んで」
「……始めっから、そう言やいーんだよ!」
伸ばしてくる両腕に今度はちゃんと答える。唇を合わせて深いキス。ブラスカの舌は涙で少し甘かった。しっかり抱きついて離れないから、キスをしている間に準備が整い、ジェクトは指を抜いてブラスカの腕を頭と背中から解いた。
「オメーはよ……」
金髪をそっと撫でながらジェクトは静かに言った。ブラスカはまだ泣きそうだから。
「ややこしー事しやがるから、俺の穴に入れてえのかと思っちまったじゃねーかよ」
「だって……こうでもしないとしてくれないと思ったんだよ?」
「あー、もう、泣くなって。つったくよー」
ぎゅっと体を抱き合う。
「ビビって損したぜ……」
「ビビった?」
「おうよ! なんか、さよなら……とか呟いちまったじゃねーかよ、返せ、戻せ!」
「ははは、ごめんよ、ジェクト。沢山していいからね」
「あたりめーだ! 三回イカス! ごんごん泣かす!」
「楽しみだなあ」
ブラスカはずっと泣いていた。ジェクトがいよいよ沈み込むとまず痛みで泣き、次に快感で泣き、最後に離れたくないと言って泣いた。ジェクトは宣言通りに三回いかせて自分は二回いった。そして後始末もせずにべったりくっ付いたまま眠って、朝、笑い合いながら後悔した。
関係はずっと続いた。ブラスカが畏れたようにはならなかった。
旅の途中でアーロンに見つかった。思い切り説教されて溜息を吐かれ、しかし彼はしぶしぶながらも、祝福のようなものを与えてくれた。
そんな風に穏やかだった。
そして、ブラスカは結局一度も、あれだけ泣いた真意を告げないままだった。ジェクトがそれを問うこともまた、無かった。二人が空に霧散してひとりぽっちになったアーロンだけが、その想いを受け止めた。
ティーダが変なテントの前でおじさんとモンスターの話を始めたので、ユウナはひとりでナギの平原を歩くことにした。ルールーが、あんまり離れないのよ! と言う。そして一人にしてくれる。
そびえ立つ崖の際をユウナは歩いた。父さん達、ここも歩いたのかな、と思う。
遠くでチョコボが鳴いている。アーロンさんたら、嬉しそう。
あれ? これ……
崖に、なつかしいものを見た。ユウナと父さんの秘密の目印。
岩に刻まれたかすかな印。十年も雨風に曝されながら、それでも残ったその小さな文字は母さんの名前のはず。どきどきしながらユウナは目を近づけた。
やっぱりそうだ!
ばっとしゃがむと、ユウナはその真下の草をむしった。こういうことしちゃいけないんだけど、今は緊急事態だからいいよね、と自分に言い聞かせながら、裁きの杖で土を掘る。手首くらいの深さで杖の先が何かに当たった。蒼い輝きがのぞく。
スフィアだ!
構っていられない。夢中で掘り出し、袖で土を払い、急いで再生する。これは、ユウナだけに残してくれた父さんの言葉だから。
「見つかっちゃったね!」
ブラスカが語り掛ける。うん、見つけたよ。ユウナは心で答える。
「どうしても、ユウナに言っておきたいことがあってねえ。ここなら誰も見つけない。でもユウナはきっと見つける。そんな気がするんだけど……おかしいね!」
ううん、ちゃんとそうなったじゃない。
「ええとね。うーん。あはあ、困ったなあ」
……嬉しそうなんだけど、父さん。
「いやね、父さん、ちょっと恥ずかしいんだけど今すごく幸せでねえ。それで、ええとねえ。浮気しちゃったんだ! うわあ、どうしよう!」
……父さん……ユウナ、そんなこと言われても困ります。
「すごくね、かっこいい人なんだよ! ホントは一目ぼれしてたんだけど、それは教えてあげないんだ。でも、母さんに怒られるような事、しちゃったよ!」
……それでユウナにどうしろと?
「いやいや、話はそれじゃないんだよ、その先、ずっと先。ユウナがこれを見ているなら、ユウナも旅をしているってことだよね。父さんは、きっとそうなると思ってる。だからここに埋めることにしたんだ。そして、たぶん、ティーダって男の子が一緒にいるだろう? ほら、当たりだ!」
ええっ……じゃあ、やっぱり決まっていたことなの……? そんな気がしてたんだ。
「大変なのはこれからだよ。がんばれ、ユウナ。父さんもがんばった。ユウナは父さんの子だ。大体母さんに似ちゃったけど、根っこのところは父さんによく似てる。だから、がんばれ! きっとティーダはユウナが好きになるよ!」
……なんだか話の方向がヘン。
「あ、いけない! もうシンが来るみたいだ!」
えええええっ!!!???
「アーロンが呼んでるからもう行くよ。がんばるんだよ、ユウナ。ティーダをモノにするんだよ! そしたら父さんも幸せだ。てゆーか、ティーダ、ジェクトの子供なんだから絶対手が早いだろうねえ、もうまとまってたりして。いーよいーよ、父さんが許す」
……本当に父さんがシンを倒したの? ちょっと信じられなくなってきた。
「それじゃあユウナ。愛してるよ。もちろん母さんもね! でもねえ、彼も同じくらいなんだよなあ、もう一心同体だから異界で母さんに会ったらどうしよう! 困ったなあ! あはあは。じゃあね」
じゃあね? シンと今から戦うのに、あはあは、じゃあね?
ホントにスフィアはそこで終わった。ユウナは茫然と、一人立ち尽くした。そして、気になったことがあったのでもう一度再生した。見終わったユウナの肩は震えていた。
「アーロンさんの馬鹿あっ!」
「どうしたユウナ。血相を変えて」
「アーロンさんなんか、アーロンさんなんか、痔になっちゃえ!」
ぱかーん。
スフィアが投げつけられた。厚い胸筋に跳ね返って草の上に転がったスフィアをアーロンは拾う。ユウナは走って行ってしまった。
「痔ってなんすか?」
こきこき首を回してティーダが見上げてくる。
「……分からん。若い娘は一々不可解だ」
再生。ティーダの見上げるアーロンの顔は刻一刻と凄みを増し、最後に長い友達である青筋が額に出現した。
「ア、アーロン?」
「ユウナーッ!」
「アーロン? どうしたんだよー」
「<彼>は俺じゃないッ、俺じゃないんだ、ユウナー!!!」
「どしたの、おっさん?」
「なんかしんないけど、スフィア見てこーふんしたみたいっす」
「これだからー、中年ってーイイのよねー」
「……リュックの考えって分かんないっす……」
「てゆーかユウナ! コレ見てなんで俺が痔になる側だと断定するんだー! それより、その<痔>という発想は誰に教わったんだー!」
ナギ平原を渡る風に、アーロンの悲痛な叫びがこだまする。
今のところ、シンは空のどこかでそれを聞いて笑っているらしい。
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