いちご味ではないけれど

 偶然だ、偶然。宿に三人が泊まれる部屋が無かった。誰と誰が組んでもいいものだが、あいつが俺と組むことを主張したからこうなった。もちろんブラスカ様には何のこだわりもない。そうですか、そうしましょう、はいおやすみなさい、と言って部屋に入ってしまわれた。ものの数分間の出来事だった。

 俺は、疲れた、もう寝る、と宣言してベッドに入った。あいつはふーん、と言って首をかりこり掻き、俺をじろりと見た。俺は完全無視を決め込む。実際疲れていたんだ。たかが森を抜けるのにニ日も彷徨った後なんだから。それだって、アレが見たい、コレが珍しいとうろうろするから迷子になって……。何もかも、あいつのせいだ。
「そのまんまで寝るのかよ」
「俺のことは放っておいてくれ」
 脱いだり着替えたりなんて危なくてできるものか。俺はかなり不愉快な気分で毛布に入り、あいつのベッドに背中を向けた。ふーん、とまた癇に障る声が聞こえるが、無視だ無視、とにかく無視に限る。
 あいつは大人しくベッドに座ったらしい。タバコの臭いがする。しばらく様子を窺って耳をそばだててていたが、本気で眠気がやってきて俺は目を瞑った。浅く幸せに睡魔に襲われる俺に、別のモノが襲い掛かったのはそれからすぐだった。

「ヤろうぜ、ヤるよな、つーか、ヤル」
 乗っかってきやがった! ヤニ臭い!
「おっ、俺は眠いんだ!」
「オメーは寝てていーわ、勝手にヤルからよ」
「か、勝手!? しっ、信じられん、うわ、おい、やめ、」
「お、こっちは起きかけじゃねーかよ、疲れマラかあ」
 下品だ。下品すぎる。
「嫌だ! おい、嫌だって言ってるだろうが!」
「まーまーまーまー」
「あんたはなんでそうなんだ!」
「しー、静かにしねえとブラスカが気付くぜ」
 気付いて下さい! 助けて、ブラスカ様!
静かにするとかしないとかいう問題ではなく、ぐいぐい口を押さえられて声なんか出るものか。ごつい腕は押し返してもびくともしなかった。怒りと疲れで窒息しそうになりながらも俺は抵抗を続けた。腹を蹴り上げると硬い筋肉が防御しているのが分かって変な嫉妬をする。俺がもっと筋肉質だったならば!
 抵抗は長くは続かなかった。片手でほいほい服を脱がされ、最後のあがき、と蹴り上げた足を捉まれてぐるっと引っくり返される。奴は仕上げに嬉しそうに自分のパンツをベッドから脱ぎ落とした。
「んー? もうお仕舞えか?」
 背中にぴったり胸がくっつき、尻の間にデカイものが挟まった。げっそりする、げっそりする、げっそりする!これがコレが之がああああもう!
「……うるさい! ヤるならさっさと済ませろ!」
 俺は低く唸った。覚悟した。仮眠程度の時間の辛抱だ。
「そうこなくっちゃなあ!」
 顔は見えなくても満面の笑みだと分かる。ムカツク。我慢する。



 ……我慢する。しかし数を数えてみても枕を噛んでも、両手でぎっちり捉まれて擦られれば勃つものは勃つ。
「へへ、いー感じになってきたじゃねえかよ」
 いー感じなのはあんたの脳内だけだ。
「よーし、ちゃんと準備してやっからケツ上げろ」
 横倒しだったところを握ったまま引き上げられる。尻が上がらないはずはない。最悪だ。問題の場所に鼻息がかかるのが分かる。それは決して近くで見るものではない。間違いなくこいつは頭が悪い、そう決めた。決めた途端にぐいっと尻を開かれ、穴の表面を指の腹でごしごし擦られた。
 何が面白いんだ! その鼻歌をやめろ!
「気持ち良くなるぜえ。ほらほら」
 何がほらほらだ! オイルを塗ったくった指がぐいぐい押し込まれ、根元まで入って蠢き始めた。気持ちいいとか悪いとか、そんなことより何処から、何時、オイルを取り出したのかを聞きたいっ!
「やーらかくなってきたなあ、おい。感じてんだろ、なあなあなあ」
「うるさいっ!!! 黙ってヤれ!」
「そんなもったいねえことするか。ほれ、もう一本」
 ねちねちと指を増やされながら俺は時計を見る。なんてことだ、指だけで、我慢すると決めた時間が過ぎてしまったじゃないか!
「さーてと」
 奴の腕が前と後ろから離れて俺は自由になった。きっ、と振り返って睨むと奴はお決まりの腕組みポーズ、膝立ちで俺を見下ろしていた。
「いー眺めだぜ」
 俺ははっと気付いて尻を下ろす。冗談じゃない! がば、と起き上がるとあぐらを組み、問題の部分をシーツに押し付ける。とりあえず毛布を被ったりもしてみる。効果の有無は関係ない。これは既に、俺という人間の尊厳に関わる。抵抗する、という行動自体に意味があるのだ。……たぶん。
 にやり。
 奴の笑顔ほど凶悪なものはないと思える瞬間。
「そーか、やっぱ、顔見てヤりてーんだな! カワイイなあ、おめえはよ!」
 違う……違うんだ……
 軽く目眩を感じた。がば、と被さってくる野獣に毛布を剥がされ、足を広げられ、俺はどうでもいい気分になってくる。
「口でされんの、好きだろが。ヤってやる」
 どうぞ、ご自由に。
 生暖かい口内に性器を侵されながら俺はなんだか泣きたい気分になった。気持ちいい。違う、そうじゃなくて……
「んー、このオイル、不味いよな。なんかこう、イチゴ味とかねえもんかな」
 イチゴ……? イチゴってなんだっけ……とりあえず穴まで舐めなければいいんじゃないか?
 再度、指が詰め込まれた。三本だなあ、と俺は考える。かなり、そう、かなり気持ち良くなってきた。いや、だから、そうじゃなく。頭がぼんやりして自分の状況が分かっていて分かっていなくて。奴の顔が面白そうな表情で俺に近づいてくるのが霞んで見えた。
「ちゅーすると感じるんだよな、おめえはよ」
 ざらざら。髭が擦り付けられる。舌が……細かいことは苦手なくせに、どうしてこんなに舌は器用に動くんだろう。……う……確かにこのオイル、不味い。……うわ、そんなところ引っ掻くと、引っ掻くと……気持ちいい……
「そろそろいいか。んじゃ」
 朦朧とキスを終えた俺の問題の場所にぎゅっとデカイもんが押し付けられる。オイルは塗ってあるけど半端じゃない。一気に覚醒。
「痛い! 痛い痛い痛いいい!!!」
「我慢だ、我慢、すーぐに良くならあ」
「ならない! 抜け! 今すぐに抜け!」
「てめえが力抜けってんだ、よっ、と」
「ふわっ……! 嫌だ……」
 腰をきつく掴み浮かすようにして奥まで来た。痛い、熱い。視界がぐるぐる回っている。また顔が近づいてきて、キス。苦しい。息が……
「くう……いた……」
「よーしよし、怪我ぁさせてねえよ。ちょっとのしんぼーだからな」
 頭を撫でた手の平が続いて萎えかけた性器を包む。ごしごしやるだけじゃなく、先とか穴とか裏筋とかくすぐるように責めてくる。この手も結構器用だ。忙しく手を動かしながら、一旦離れた唇がまた寄ってきて舌先で歯を舐め、つるっと入ってきて口中を占領する。いつのまにか俺の舌が奴の口の中に収まり、俺は涙を堪えながら力いっぱいぼさぼさの頭を抱きしめている。バンダナが指に引っかかって邪魔だから取ってしまおう。邪魔? 邪魔ってなんの邪魔だ!
 ああ、キス。ムカツクくらい上手なキス。って言っても、俺はこいつ以外とキスなんてしたことがないから上手かどうかなんて本当は分からない。でも、ふうっ、とする浮遊感がたまらない。キスがこういうものだと知ってからは、本当にエボンの教えが正しいって事を実感した。こんなこと、結婚している相手としか、しちゃ駄目だ。こんなこと、妻子持ちのイカレ野獣なんかとしたら、人生を吸い取られてしまう。……もう、遅いけどな……ふっ。
「んー。もうちっとだな」
 ……まだ抜き差ししてこない。もう痛くないのに、じれったい。……だから、違うだろう、俺。
「どうだ、アーロン。痛ぇか?」
 ちょっとだけ動いた。嬉しい。……違う、違うぞ、俺。
「どうだよ、言ってみろって」
 慣らすために微妙に動いている。ちょっと回すような感じ。一番気持ちいいところに当たってる。気持ちいい? いいのかな、俺。こいつ、ココを何時覚えたんだろう。俺、何時教えてしまったんだろう。なんでこいつ、こんな風に微妙に優しいんだろうか。
「俺が我慢ならねえな……動くぜ」
 もう、どうでもいい。本格的に腰が動き出して一層腕に力が篭る。背中の筋肉の束が俺の指の下で緊張しながら動いている。自分の喉が鳴き始めているみたいで、でもあまり聞こえない。こいつの呼吸ははっきり聞こえるのに。ぜぇぜぇして、欲情に塗れて、みっともない。……あ、これ、俺の息か……
「イイ声出せよ。オメー、すげえ勃ってるぜ」
 ああ、どうしたんだろ、俺。目一杯、こいつの尻を掴んで自分の腰に押し付けているような気がするんだけど。

「んー? いいか? イイって言え」
「……いい、ジェク……」
「そっか。もっとだろ、もっとしてって言え」
「もっと……してくれ……」
「奥まで突いて欲しいんだろ、んん? 言えって」
「あ、奥、まで、はあ、奥まで突いて、くれ、」
「よしよし、してやろーな、いーか?」
「あ、いい、いい……」
「うんうん、そりゃ良かったな。イキそうか?どうなんだよー」
「……あ、ま、まだ、もっと」
「いーこだ。なあ、コレ好きだろ」
「ああ、は……」
「もうこいつなしじゃ生きてけねーよな、な、」
「はあ、あ、」
「ジェクトのちんぽがなきゃ生きてけねえって言えよう」
「あ、ジェク、……いっ」
「ほらほら、やめちまうぞ」
「あっ! あ、ジェクト、の、がなきゃ、生きて、いけない……あ!」
「そーかそーか。ほら、すげー音。絡んでるぜ。美味いだろー?」
「あ、お、美味しい、あ、いい、」
「そーだろ、そーだろ。ほら、イクイクって言えよ」
「は、いい、いく、、ああ、いく……」
「……ジェクト愛してるって言いな。なあ……そうなんだろ?」
「ジェクト……」
「あーーー! やめやめ! やめ! 言うな! ほらイケ、カワイイ顔していっちまえ」
「ああジェクト……愛してる、ジェクト、愛してる……」
「アーロン……」
「ジェクト、ジェクト!」
「愛してるぜ、アーロン」



 気が付けば朝だった。汗臭い腕にがっちり抱き込まれ、鎖骨あたりに顎が乗っている。自分の髪が首筋に張り付いていて鬱陶しく少し動くと、まだヤんのかあ、と寝言が聞こえた。そうか、良く分かった。あんたは眠っていても馬鹿なんだということがな!
 こいつは意外と寝相がいい。眠りが深いためか、いびきもほとんど無い。規則正しい深い寝息が睫毛をくすぐるから何度か目を瞬く。暖かい。顔を横切る傷とか適当に伸ばしている髭とかを観察する。ひくひく瞼が動いているから夢でも見ているのだろう。俺ももう少し寝ようと姿勢変更を試みるが、背中を向けたくてごそごそしたら腕が締まってどうにもならなくなった。仕方なく顔を合わせたまま目を閉じる。

 始末に負えない昨夜の記憶。自分でも嫌になるが、快感に夢中になっている間の出来事を俺ははっきりと覚えている。こいつが何を言ったとか俺がなんて返事したかとか、どんな風に抱き合ったか、そして普段の姿からは想像を絶する行為だが、俺が放心している間にこいつがかいがいしく後始末までやってくれた事とか。特に、顔に飛んだ体液を、もちろん俺のものだが、とにかくそれを舐められた事がもう本当に色々、そう色々な意味でやりきれなくて叫びそうだ。

 ……眠れそうに無い。小鳥が鳴いている。ほどなく朝食だろう。起こすかな。でも、このまま拘束されていたい気もする。だって、出発は午後イチだし、ブラスカ様はまだ眠っておられるだろうし、俺は腰がだるいし。
 ぴく、と手が動いた。一旦力が抜け、また改めて強く抱いてくる。
「よお、起きてるのかよ……」
 眠そうな声。でかい口を開けて目の前で欠伸。
「ああ。手、放せ」
「んー、もーちょっと」
 俺は抵抗しなかった。仕方ないじゃないか、こいつが寝ぼけているんだから。決して、俺がいい気分だからじゃない。苦しいくらいにぎゅうぎゅう抱き締められてすごく気持ちがいいからでは決してない。

 ……なんて、思っていたのに、なんだなんだ、これは!
「はっ放せ、何考えてる! おい、お、……擦り付けるなっ!」
「朝勃ちだぁなあ。しゃーねえなあ」
「あんたはガキか!?」
「ちゅーしよーぜ、ちゅー」
 首を伸ばせば唇が届く距離、何の造作もなく、俺は黙らされた。結局、こいつはしたいようにするのだし、俺は、俺は……されたいようにされてしまうんだ。





 さあ、朝ですよ。今日も良い天気ですねえ。ジェクトがたっぷり運動させてくれたおかげで昨夜はぐっすり、今朝はすっきり、元気出していきましょう。心なしか小鳥の声も楽しそうに聞こえます。ユウナはもう起きているんでしょうかねえ。あの子のことですからきっと花に水をやったり、スフィアを再生しておはよう、お父さん、なーんて言ってるんでしょうねえ、うっ。……いけません、湿っぽくなってしまいました。早く目を乾かさないと私の可愛いガード達が心配してしまうじゃないですか。特にアーロンは心配性なんですから、気をつけないとね。アーロンの表情が曇るとジェクトがそわそわしてうるさいことこの上ないですし。いえいえ、私はジェクトが大好きですとも、ええ、とても。
 ええと、こちらの部屋でしたか? 昨夜はさすがの私も目の焦点が合わないくらいの疲労でしたから、ちゃんと部屋を確認しませんでした。いけません、召喚士たるもの、いかなる時も緊張を忘れてはなりません。とりあえずノックでもしてみましょう。

 ……返事がありませんね。無人でしょうか。やはり部屋を間違えたのかもしれません。おや、何か話し声が聞こえます。ジェクトの声のようです。おやおや、鍵が掛かっていませんね。いけません、ガードたるもの、いかなる時でも油断は禁物です。ちょっとびっくりさせてやりましょう。猛省せよ、ですね。


 ……大変失礼致しました。やはり部屋を間違えたようです。私の可愛いガード達が朝っぱらから下半身を結合させているなど有り得ません。いやはや、もう老眼ですかねえ、最近目がしょぼしょぼするのですよ……しかし、良く似た二人でした……

……

……

 もう一度開けてみましょうか。



「あああああ、やっぱりあなた達! 何をしているのですか、ジェクト!」
「遅えよ、ブラスカ。いっぺんで気付けって」
「離れなさい、抜きなさい、そこに座りなさいジェクト!」
「無理」
「あなたにはニョーボコドモがいるのではなかったのですか!」
「そういう問題でもねえけどな……」
「可哀想だとは思わないのですか、私の可愛いアーロンがそんなに苦しんでいるというのに!」
「おめでてーよ、おめえはよ」
「やめなさい、今すぐ停止するのです! さもないと召喚です、ヴァルファーレのODが溜まっています!」
「わーったから十分待て。すぐに止めるとこいつも具合わりぃからよ、外で待ってろって」
「……分かりました、十分ですね! 六百秒です! ナノセコンドでも遅れれば召喚です!」
「だーっ! いーから出てけ!」
「……ブラスカ……さま……?」
「おーよ、うるせえショーカンシ様だぜ。せっかくのイー気分なのになあ、なあアーロン」
「……貴様、殺す」
「おめえがシヌシヌじゃねーか、ほれ、ちゃっちゃとイクぞ!」



 その後の顛末については多くを語りたくない。とりあえず出発までの三時間、ブラスカ様の最強OD技、「説教」(最後には演説になっていたようだが)が炸裂し続けたことだけは言っておこう。そして、HPを限りなくゼロに近づけて出発した俺の耳元で元気一杯に、やっぱ朝マンはサイコーだよな! と言った男がヴァルファーレに踏み潰されたことも……






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