軽い食事の後、三人はジョゼを目指して歩き始めた。グアドを出るとすぐに森、そこから続くのどかな風景とは裏腹に魔物の多い道だった。しかし、普段なら早々に休憩だ昼寝させろとごたつくジェクトは、何かに取り憑かれたように魔物に向かっていく。顔を見合わせるブラスカとアーロンにも気が付く様子がない。
「どうしたんだろう」
「やっとガードの自覚が出てきたのでは」
「まさか! ジェクトだよ?」
「……俺ならともかく、ブラスカ様がそうおっしゃってはいけません」
「そうだね……」
ぶよぶよと跳ねる魔物に剣を振り下ろしているジェクトは真剣そのものだ。
「うおい! まほーまほー! こいつちっとも剣が効かねえ!」
「はいはい、離れて離れて」
指先で氷を呼びながらも、ブラスカは思案するようだった。
「すげーな、おい」
「これは見事だ……良い時間に着けたね」
夕闇の迫る頃、増え続ける魔物から逃れ駆け込むようにして幻光河の集落に辿り着いた三人は、目の前に広がる光の大群に目を奪われた。
「今夜は特に大量だ。今まで何度か来たが、ここまでのものは見たことがない」
感心するブラスカの隣で、ジェクトは群れる光をつついては散らす。
「こいつら、タマシイってことでいいのか?」
「そうじゃない。生きるものすべてに含まれてはいるが、それだけで生命が成り立つというものではないんだ。命の構成要素、とでも言うべきか」
「おまえは一々難しーんだよ」
そう言いながらも感動しているらしいジェクトは、目を眇めながら幻光虫の放つ光を優しく川へと促してやっているブラスカをちらりと見る。
「なんでここだけこんなに集まるんだ?」
「良くは分かっていないんだ。川に集まるというのは、水に馴染みやすいという幻光虫の性質から考えれば妥当だけどね。『ここ』である必要はないな。この辺りの土に幻光虫を呼び寄せる物質が含まれていると言う者もいるが……。私は、この川が大河であって、ジョゼ大陸の主要な場所に流れこんでいるからだと思っている。幻光河から支流へ、そしてその先の土地へと、加わることが可能な新しい命を探して好きな場所に流れて行ける。効率の問題だと思う」
「おまえは現実主義者だな、全く」
「そうでもない。本来は直感で動くのが好きなんだ」
そう言いながらブラスカはじっとジェクトを見上げた。なんだよ、と顎を引く男に微笑んだ時、いつの間にか離れていたアーロンが駆け戻って来た。
「ブラスカ様、宿が取れました」
「勤勉だね、君は」
「ありがとうございます。ハイペロ族達が召喚士様ならと、随分安値で融通してくれました」
「それはありがたい……。そういう人達に支えられているんだな、この旅は。私達三人だけの旅じゃないのかもしれないね」
「はい……」
「よし、辛気くさいのは終了だ」
アーロンの手から鍵を奪い、ジェクトは歯を見せた。
「俺は今夜の酒を調達してくっかな!」
言いながらずいっと手をブラスカに突き出す。
「ほどほどにしてくれよ」
苦笑と共にギルが手のひらに乗る。こめかみを引きつらせているアーロンの腕を押さえながら、ブラスカは奥の広場に焚かれた火を空いた手で示した。
「シパーフ遣い達は気の良い連中だ。夜は大概あそこで酒盛りをしている。一緒に飲んだらいい。おねえちゃんはいないからね、ここには」
ブラスカの言葉を聞いた途端、ジェクトは顔をしかめて肩を竦めた。
「確かに色気はなさそうだな。仕方ねえ、そうすっか」
じゃあな、と軽く手を上げてジェクトはあっという間に人混みに消えた。
その夜、一人の泥酔者が起こした惨劇とそれを償った召喚士の誠実な態度は、長くハイペロ族によって語り伝えられたという。
が、スローテンポな口伝えのために、実際に語られることはほとんどなかったとも言われている。
FF10 100のお題