時折、ティーダは奇怪な行動に出る。いや、かなり頻繁かもしれん、そう心中で呟きながらアーロンはコーヒーを飲んでいる。
現在深夜二時、アーロンはティーダを眺めていた。彼は今ベッドの上で、はさみを握って熱心に布を裁断している。ほんの数分前に始まったそれは、手に持った布が全て細切れになるまで終わりはしないだろう。アーロンはひいきの通販番組にチャンネルを合わしてコーヒーを入れ替えにキッチンに向かった。
「ティーダ」
「んー?」
目をはさみから離さず、ティーダは気のない返事をする。
「コーヒーはいらんのか」
「後でー」
彼の手の中の細長い布は、半分までが半インチ四方程度に切り刻まれている。最初の勢いは緩まってむしろ規則的にはさみを動かしながら、ティーダは僅かに笑みを浮かべている。ある種の真剣な顔をする時、ティーダの唇は両端が少しだけ上がるのだ。
一人分のカップを手に椅子に戻り、アーロンはテレビに視線を流す。先日買ったマッサージ器が三十パーセントオフになっている。あれはティーダのものになったらしいのでもう一つ買ってもいいかもしれない、などと考えていると、ティーダが弾んだ声を上げた。
「出来た!」
小さな山になった細切れの布を見ながら、金髪が何度か上下する。満足しているらしい。
「それをどうするんだ」
「んー? あ、俺もコーヒー」
フローリングをぺたぺたと鳴らしながら、ティーダはアーロンの隣を軽い様子で駆けた。そしてすぐにカップを持って布の前に座る。何度も頷いているのは機嫌が良い証拠だ。アーロンは席を立った。
ティーダの隣に座るとスプリングが重く鳴る。本当に替え時だ。
「何がしたかったんだ?」
んー、とティーダは首を傾げ、アーロンを見つめた。
「持って」
渡されたカップには半分ほど液体が残っている。珍しくブラックだったので口にしようとした時、ティーダは切れ端を両手で掬って頭上に放った。
「……ティーダ」
目の前を薄赤い破片が舞い、コーヒーの中に何枚かが落ちる。
「結構キレイじゃん」
にやりと笑うティーダの髪の間に入り込んだ赤が妙に鮮やかだった。払ってやろうと手を伸ばし掛けたが、これは、なんとも、例えるならば、とアーロンの動きは止まる。ほろほろと布を落としながらカップを奪って床に置き、ティーダは淡い赤が撒き散らされたシーツの上に横たわった。
「しよう、アーロン」
否やを言う理由は無かった。マッサージャーが十程買える値段の、かつてネクタイだった物の上で、アーロンは少年が差し出す手を掴む。
FF10 100のお題