小さな食堂ホールは暖かい色の光に溢れていた。稲妻と冷たい雨に疲れた旅人をもてなすため、暖炉にはスープの鍋がかかっており、いくらでも飲んで良いという説明が副えられている。
楽しげに、あるいは疲労に言葉少なく、何組かの宿泊客が食事をする中を歩き、アーロンとジェクトの座るテーブルに向かってブラスカは歩いた。
「しょうかんしさま?」
可愛らしい声に立ち止まる。二重奏だ。
「これ、お邪魔をするんじゃありません」
「だってはじめて見るもん」
「はじめてだよね」
ねー、と顔を見合してけらけらと笑うのは六、七歳の女の子達。不躾ですみません、と両親らしき男女が頭を下げる。それに手を上げて微笑み、
「こんばんは」
とブラスカが笑いかけると、一転して子供達は恥かしそうに首を竦めた。動作がぴったり同じだ。ほら、ご挨拶は、と父親に頭を押さえられ、また二人そろって、こんばんはーと小さな声がする。
「どちらへ行かれるんですか」
「ルカです。ブリッツの本場に一度くらいは連れて行ってやりたくてね」
あっちに女房の実家があるし、と男は笑う。家族の食事は既に終わっているらしく、それぞれが飲み物を手にくつろぐ様子だった。幸せそうな家族に笑みを深くし、ブラスカは子供達の頭を両手で撫でた。途端、きゃー、と子供らはけたたましく笑って椅子から転がるように降り、しっかり手を繋いで駆けて行ってしまった。
「おやおや。逃げられてしまった」
「あ、こら、お前達!」
父親が慌てて子供らを追う。奥方は更に恐縮し、ブラスカに頭を何度も下げてから走り去った。
「あ、あの子達だ」
食事を済ませた三人が食堂を出ると、受付前の土産物をじっと見つめている二人の子供がいた。
「そっくりだなー、ありゃ双子か」
「だろうねー」
子供達はちょろちょろと辺りを見回っている。繋いだ小さな手は離れる気配も無く、同じ物を指差してひそひそと楽しげに会話をしている。
「……ずっと二人か。いいかもな」
「そうだねえ」
「ウチのニョウボじゃ、二人いっぺんに産むのはキツそうだがなあ」
「私の奥さんなら大丈夫だっただろうな」
あの人は丈夫というか頑丈だったから、とブラスカは笑い、それで気付いた子供達が二人揃って手を振ってきた。それに手を振り返してブラスカは階段を上がる。
「じゃあ、お休みアーロン」
「ブラスカ様……よろしいのですか」
アーロンは困ったようにブラスカを見上げて肩を落としている。まだ部屋割りを気にしているらしい。
「いいんだって。面白い部屋だよ。見に来るかい?」
「そ、そうだ、見に来い! なんだったら泊まってけ!」
「……止めておこう。何か良からぬものを感じる」
眠っている間に顔にラクガキをされた事のあるアーロンはジェクトを睨み、そして丁寧にブラスカに礼を取ってから背を向けた。
「くっそう……」
がりがり頭を掻くジェクトにちらりと視線をやり、ブラスカは先に立って歩き出した。が、ジェクトは部屋の前でむんずと腕を組むと、立ち止まってしまった。
「どうしたんだ、ジェクト」
「……俺はもうしばらくうろつく事にした!」
「どこにうろつく場所があるっていうんだい?」
「うっせー! まだ眠くねーっつってんだよ!」
一瞬呆れた顔になり、続いて噴出すように笑いながらブラスカはジェクトの腕を掴んで引っ張った。
「好きなだけ起きていればいいよ。大人しく部屋に戻ってくれ」
「嫌だ!」
「全く君は子供だねえ」
「放っとけ!」
腕組みをしたまま顎を逸らすジェクトの下をくぐるようにして、ブラスカは扉を開けた。
「ジェクト」
「何だよ」
ふん、と鼻息を聞かせるジェクトはブラスカを威嚇するように目だけで見下げる。
「意気地なしって言葉、知ってるかい?」
凄みのある視線をまともに受けたジェクトが固まっている間にドアは目の前で閉じられた。
FF10 100のお題