深夜番組

 ジャンクフードの残骸と緩慢な情事の匂いが散らばった部屋の中でティーダは深夜目を覚ました。
 誰かの話し声が聞こえる、そう思って首を曲げるとつけっぱなしのテレビをさえぎるように、アーロンの背中があった。ボタンを留めずにシャツを着た彼は酒のグラスを傍らに置き、画面を灯りに黙々と作業をしているようだった。並べられた部品から銃の手入れをしているのだろうとティーダは眠い目を瞬いた。
 初めてアーロンに買われた夜も、彼がこうして作業をしている姿をティーダは見た。それはまだティーダが単なる男娼であった頃だったので、鏡越しに彼の前に分解された銃が見えた時には背筋が凍ったものだ。ティーダの部屋へ来るのを嫌がり、買った値段よりも高いホテルの部屋を取った男は単なる変わり者ではなく慎重な殺し屋だったのだと、ふかふかのベッドの中で震えた事を思い出してティーダはそっと笑った。
 今ではアーロンが手にするパーツを、どこに嵌めれば良いのかティーダは知っている。その世界がなじみのものになってもう二年が経った。

 ああそういえば。

 何が気に入ったのか、それ以後アーロンは度々ティーダを買った。絹のネクタイをしているくせにジャンクフード好きな男への緊張が解れるのは早く、また男もティーダの部屋に泊まるようになってしばらくしたある日、アーロンが激怒した事がある。何気なく、ティーダがもうすぐ十五になると言った次の瞬間、アーロンは彼をベッドから蹴り落として銃を突きつけた。一体何が逆鱗に触れたのか理解出来ず、ティーダは本気で怯えて命乞いをした。

 なんだったんだろ、あれ。

 時折酒を口に運び、手入れの済んだ部品を手際よく組み立ててゆく男の背中を見ながら寝返りを打つ。
 ティーダは初めてアーロンと値段交渉をした時に年齢を聞かれ、なんとなく十六だと嘘をついた。本当か、と聞かれて肯いた。そんな事はティーダはすっかり忘れていたので、気を許した頃合に素のままを言っただけだったのだが、どうやらそれがいけなかったらしい。泣いて詫びるティーダに罵声を浴びせるとアーロンは出て行った。しかし一ヶ月程するとアーロンは何も無かったように現れ、その話はそれきりになっている。

 ま、いいけど。

 未だに真相を知らないティーダだが、アーロンという男の全てを知るのは不可能だと思うようになって久しいので気にはならない。
 背を向けるアーロンは組み立て終えた銃を置いて煙草に火を点けた。と、急に身を乗り出してテレビの画面を注視する。それで画面が完全に背中に隠れて見えなくなった。アーロンは一分程真剣な雰囲気を纏ってその姿勢を崩さなかったが、やおら立ち上がると部屋の端に向かった。そして電話の受話器を取り上げた。
 組織に関わる事件だろうかとティーダはアーロンの去った空間に目を凝らす。しかしテレビは既にコマーシャルになっており、男女が何か品物を手にとって説明している映像が流れている。
 電話が繋がった。聞いて良いものかと思いながらもティーダは好奇心に耳をそばだてた。アーロンはまず、ティーダの名前と住所を言い、そして。



「ああそうだ。うむ……。商品番号9961、くるくるマッサージャーを一つ」



「あははははははは!」
 アーロンが受話器を置いた途端、爆発したように笑い声が響いた。アーロンはびくり、と背中を揺らしたが振り返らなかった。
「あは、あははははは!」
 うるさい、と他の部屋から怒声が聞こえ、ティーダは毛布を被って枕に顔を押し当てた。

 やはり、この男を理解するのは不可能だ!






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