いつだったか、涼介さんがバトルの時に言ってた。ドライバーは現象だけを追っていたら駄目だって。今は自分が考えるのを手伝うけど、いずれは全部自分でやるんだぜって啓介さんに言ってた。俺はって思って見てたら、おまえにも段階を踏んでやっているから心配するなって言われた。
やっぱり子供扱いされてるよな。でも俺だってちょっとは考えてる。だから、涼介さんの言う現象ってやつのことは少しわかってきたつもり。見えるからってだけでライン取りしてちゃダメなんだ、とか、松本さんがエンジン見ながら教えてくれたことを、エンジンが無い場所で正確に思い出せるようになる、とか。
そういう風に考える練習をしているからかな、最近思うようになった。俺は何をされてるんだろうって。よくわかんない。でも、何かされてるはず。絶対。涼介さんはなんも考え無しでああいうコトしない。全然必要ないじゃん、チンコ入れたり擦り合ったりなんて。だって涼介さんだよ? いくらだって女とやれるのにいらねーじゃん、そんなの。何かあるんだ。まだ俺にはわからなくて涼介さんにはわかってること。俺は何かをされてる。何かある。
って思おうと必死。だって誰だってわかるだろ、まあ男同士っていうのがよくわかんねーけど、そういうのもアリな人なんだよきっと。そこだけ珍しくて、やってんのは顔見知りとチンコ入れたり擦り合ったり。
そんなのセフレじゃん、ただの。
うわー嫌だな、セフレ。女とも一回しかやってねえのになんで男のセフレ。見抜かれてんのかな。これはイケるとか思われたんかな。ちゃんとしとけば良かったな。あいつ、そーゆーの三擦り半っていうんだよォって笑ってたしな。まあ実際そうだったからいいけど。やらねーって約束でラブホ行ったのにやっちゃったから時間無かったしな。ちくしょう。あーあ。
何が嫌なんだよ、俺、もういいじゃんセフレで。涼介さん楽しそうだし俺も気持ちいいんだし。……セフレかあ、セフレ。この前のバトルの時、こういうのいつまで続くんかなって考えてたらすごい具合悪くなった。びっくりした。涼介さんじゃない誰かとセックスしてる自分を想像したら気持ち悪くなって、なんか俺、もう涼介さんとしかできないのかもしんないって思ったら、胸の中が熱くなって息できなくなって涼介さんにすごく迷惑かけた。涼介さんは怒ってなかったけど、怒られなけりゃそれでいいってことでもないし。
しっかりしないと。俺が出来ることは走って勝つってことだけなんだから。ぼーっとしてちゃダメだ。色々考え過ぎてもダメだ。バトルだけはちゃんとする。もう二度と直前にあんなんならないようにしないと。……セフレかあ。
しょうがないだろ、そうなんだから。
もうさ、そんじゃさ、積極的にやってみるかなって、バトルが終わって満足そうな涼介さんを見て思った。楽しい感じでちょっとでも気持ち良くなってもらって、俺もすごく良かったって言うんだ。そしたら、なんもしないよりかは長持ちするかもしんない。
決めたらすぐがいい。時間経ったら無理。謝りたかったし、会って下さいって初めてメールした。どこかに挨拶に行くから遅くなるって返事が来た。帰れってことかなって常磐道走ってたら一行メールが来た。どこだよこのファミレス。もういいやどこでも。高崎で張ってたらいいよな。関越に乗っちゃえ。あ、またメール。んーやっぱ高崎で降りるのか。そっかあのファミレス……。
駐車場で待ってたら眠くなって気が付いたら窓叩かれてた。え、もう二時。とりあえずクルマから出て頭半分寝たまま、すみませんと頭を下げた。涼介さんはちょっとびっくりしてた。あんま日本語になってなかったけどバトル前のことだって説明してみるとなんとか通じて、いいんだって言ってくれた。ほっとするけどほっとしてる場合じゃない。改めて会って欲しいってわーわー言ってメールするって約束してもらって、それでよく見ればっていうか当り前なんだけど、すごく近くにワンボックスがあって史浩さんが散歩に連れてってもらえない犬みたいな顔してハンドルに頭を乗せてた。俺がびくってしてるのを見て涼介さんは笑ってた。
次の日にメールをもらった。丁度昼飯食っててそば吹きそうになった。今夜って。まあいいけど。お中元で戦争中だって返したら何時でもいいから終わったら電話くれって返事。またFCで迎えに来てくれるらしい。
十時過ぎてやっと仕事が終わって電話。営業所の近くのコンビニの前で半分寝ながら座ってたら、聞き覚えのある音がした。普通の道ではちょっと頼りない感じのエンジン音。ぴたっと横に着けてくれてナビに乗って、どこ行くって聞かれてああ俺バカだって思った。なんも考えて無い。その辺どこでもって答えたら、なんでか運転交代させられた。啓介さんにも滅多に触らせないんだよな、このクルマ。すげー緊張しながらアクセル踏んだ。ぶつけたらどうしようって、まあ有り得ないんだけど思ったり。丁寧に走って、俺の大学おまえの職場から結構近いだろって言うからなんだろうって見たら付属病院って看板が出てる。病院でしょここって言ったら笑われた。群大付属病院なんだから大学もあるんだって。そりゃそうだよな……。なんか涼介さんだけめちゃくちゃ楽しそうだ。くそう。
しばらく十七号を走った。涼介さんが言うまま渋川入って三五三号。赤城かなって思ったら三回左折って言われてあれって思った途端に例の施設に入っちまった。そりゃどこでもイイって言ったけど。うわ、すげー青いタテモノ……。え、選べって、えーと料金見にくいなーなんで奥に……あーっ後ろからクルマ来てる! やば、笑ってないで選んで下さいって! あーもーこれにする!
なんかいきなり疲れた。涼介さんはさっさとFC降りてホテルの名前が書いた板でナンバープレートを隠してる。エンジン止めて涼介さんにキー渡そうとしたら、真向かいにさっきの車が入った。見られる見られる早く部屋ん中、ってマジ楽しそうですね涼介さん。いいけど。
んーテキトーに入っちゃったわりにはイイ部屋っぽいかもしれない。黒と白で統一されてて渋い感じがする……って涼介さん涼介さんっなんで部屋ん中にそのまま湯船があんの!? どんって置いてあるんですけど! なにこれ壁どこ、ちちち違うって俺テキトーに入ったからマジで! うわどーしよ……。俺がこんなに慌ててんのに涼介さんはソファにふんぞり返ってくつろぎまくってる。なんですかそれ、メニュー? ……そうですかここは食事がウマいホテルですかそうですかいいよ俺はもう何も驚かないってえええココ史浩さんのオススメ!? 二人でそんな話すんですかーへー。あハンバーグある、けど……やっぱ止めます。くらぶはうすサンドってなんですかへえカニサンドだからくらぶなのかー。それにしようかな。何笑ってんですか?
サンドイッチにカニ入ってなかった。くそう。
そんなことはいいよ、この部屋ホントおかしいからそれどころじゃねえ。湯船の周りはタイルっていうか水がかかってもいいようなモノで出来てて、壁にガンってシャワーが付いててそこだけ見たらシャワー室に見えなくもないけど、すぐ側にでかいベッドだのソファセットだのがあるのがすごく異様。
そんで俺、またすごく必死にテレビ見てる。なんて言うか、もう。うわあ、終わったぜって、じゃあ次俺がシャワー浴びるんすか、ソコで。ソコで……。
なんか無駄に疲れてるよ俺。だってシャワーの間中、涼介さんはベッドに寝転んで俺を見てた。ものすっごく見てた! なんでだ!
あーあーもう、どうやっても涼介さんが主導権を握ってる。積極的に参加しようと思ったのにな。でもまあ、何回かしてみて流れっていうかわかってきたからここからは俺ががんばんないとってベッドに移動したら、シャワーのところにあったローションを押し付けられた。あーうんそれはわかる。けど、そっちはいらないでしょ、最初の時も着けなかったし。は、くろらむ……なんですか? 自分で作ったって何を? ひーとしーるでぱっけーじんぐって、俺英語わかりません。
……まとめますね。えーと、ゴム着けずにヤることをそーてーして、にょーどーえんとかにならないようにくろらむなんとかっていうのを入れたジェルを大学で作ってみたと。なんとなく出来たからせっかくだし持ち歩いていたと。で、使ってみたら後で中がシみて痛かったと。だから今後はゴム使えと。
えーとバカでしょ涼介さん。いや俺が思うのもなんだけどさ。言わないけどさ。
でもまあ俺としては、そういう涼介さんって結構イイっていうか。
……えーと、とりあえず電気消します。
ホテルを出る時も俺が運転した。涼介さんはごそごそやってる。んーあんま似合わないかも、ソレ。家の前で交代しようとしたら、微妙に涼介さん、傾いてる。大丈夫ですか運転できますかだってイくとき右足ケーレンしてたでしょハイハイ怒んないで気をつけてホントに。
あ、行っちゃった。キスしたかったのに。
ってしなくて良かったよ、真後ろにオヤジが立ってた。なんで音立てないんだろなこいつは。あーもーうるせー、ちゃんと帰ってきただろ、とうふ積んだのかよわかったって行ってくるって。やっぱりなんとなくオヤジの顔見づらい。とっとと車出そう。
空が明るくなってきた。日の出前って静かだ。自分の心臓の音ばっかが聞こえる。
眠れないや。やっぱ思い出しちまう。すげー機嫌良かったな涼介さん。ちょっとだけ気持ち良さそうだったし。ヘンなホテルで良かったのかも。
でもなんで夜中の三時にサングラスかけてたんだろ。目とか疲れてたんかな。昨日寝てないって言ってたし。……二回も乗っかったしな。
メールしよかな。もうっていうか、まだ起きてるかな。
……。
何コレ、メール届かない。
……。
この電話は現在使われておりませんって、ナニ。
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