肩を深くえぐられて倒れ、散らばった矢を掴むと自分の血しぶきを浴びながらラムザは跳ねるように立ち上がった。姿勢を低くし、ガフガリオンの鎧の継ぎ目に叩き入れる。緩んだ手のひらに噛み付いて耳を切られながら剣を奪い、しかしガフガリオンの重いブーツが飛んで地面に突っ伏す。
「立て!」
砂を握ってラムザは起きた。また背中から踏みつけられて頬に小石がめり込む。赤い剣を胸の下に抱いているから幾つもの切り傷が出来た。
「立てってンだよ!」
「うるさい!」
「いいから立て!」
「うるさいよ!」
ガフガリオンの足裏の下でラムザは渾身の力を振り絞る。歯を噛み締めると砂が砕けた。圧し掛かる膝を抱き込むようにして仰向けになり、剣を取り返そうとするガフガリオンをその剣で威嚇する。が、がちり、と刃は小手に当たって足はラムザの腹に乗り替えた。
「随分と有利だな、ラムザ」
「降参したら!?」
「まだ遊び足らねえなあ」
「僕の台詞だ!」
高く叫んでラムザは剣に力を入れた。小手を滑って間接の継ぎ目に入った刃を伝ってガフガリオンの血が垂れる。
「甘い。こんな大それた反逆を企むにはおまえは未熟過ぎる。今からでも遅くない、俺と一緒にイグーロスに戻れ」
ガフガリオンは、くるりと腕を回した。肉を斬らせなからひじ間接で剣を挟む。薄く鋭い刃は、微かに歪む手ごたえを伝えてあっけなくラムザの手から離れた。衝撃を受けてラムザはガフガリオンを見上げた。今見た事をやってみろ、と言われても、おそらく自分には出来ないだろう。
「いつか試してみろ。生きて進めたならばな」
見透かしたようにガフガリオンは笑う。
「ダイスダーグは全てを許すと言っていた。どうだかな……。だがこのままよりはマシだろう、目を覚ましてイグーロスに戻れ」
ラムザは歯を食い縛ってガフガリオンを見た。目を逸らしたく無かった。
「断る! 僕はこれ以上、あの人の悪事に加担するつもりはない!」
「悪事か。おまえは悪事、と言うか」
ラムザはガフガリオンの背後、剣を構えるアグリアスを見つけた。その気配に綺麗に反応してガフガリオンは取り戻した剣をラムザの胸に当てる。
「おまえはベオルブ家の人間だ。望む、望まないに関わらず、ベオルブ家に生まれた者には果たすべき責任ってのがある。その責務を、おまえは悪事と呼ぶンだな」
「それ以外のなんだと言うんだ!?」
「愚か者がッ!」
「兄さん達は自分の都合で戦争を起こしている! それが悪事でなくて何なのか、知ってたら教えてよ!」
「何かを成す為には犠牲ってのが必要なンだよ。犠牲を払わない限り人は前に進めねえ、歴史を作ることは出来ないンだよ」
「僕は、何かを犠牲にして得るようなものは要らない!」
「……この腐敗しきった国を見ろ」
ガフガリオンはラムザから視線を外し、門から見える地平を眺めた。
「だれかが変えなきゃならん。おまえの兄貴はそれをやろうとしている。たとえそれが悪事と呼ばれようとも、ベオルブの者としてやらねばならない事だからだ」
「そんな汚れた家名に何の意味がある!」
「未熟者と汚れた家名、どっちが役に立つ?」
「だからって……、だからってオヴェリア様を見殺しになんて出来ない!」
ラムザは手探りで掴んだ矢を思い切り突き出した。無我夢中で何の意図もない無意味な行為だったが、ガフガリオンもまた予想していなかったようだ。反射的に避けた事で開いたわき腹の、鎧の間を鋭い矢先がえぐった。僅かに力が緩んだ足の下でラムザは滅茶苦茶に暴れ、這い出した。
「はん! 未熟ってのも役に立つもンだな!」
血を滴らせてガフガリオンは立ち上がった。聖剣技の構えを取るアグリアスを、一瞬の詠唱で降らせた暗黒の雷で退かせる。
「ベオルブの人間?」
伏せた砂の上から這い上がってアグリアスが茫然と呟いた。
「ラムザはベオルブ家の者なのか……?」
「……姐さん、知らなかったのか?」
この場に不似合いなほど、気まずそうにガフガリオンが言った。アグリアスの下がった切先をつまらなさそうに眺め、がりがりと頭を掻く。
「ラムザ・ベオルブ。世間にゃあまり知られていないが、確かにコイツはあのお貴族さんの末弟だ」
そう告げると手負いに見えぬ速さで門の歩墻に駆け出す。追いすがることも忘れ、アグリアスはラムザを見下ろした。
「北天騎士団を統べる、ダイスダーグ殿の弟、か?」
ラムザは暴れたために首筋に負った傷から少なくない血を流していた。砂と血と汗にまみれたラムザは、アグリアスの目に小さく映った。
「そうだよ」
口の中の砂とともに吐き捨てる。
「でも僕はあの人達とは違う! 信じてくれなくて構わないけど言っておく、オヴェリア様の誘拐の事、本当に何も知らなかった」
アグリアスは静かに懐を探った。ポーションを放ると背を向ける。
「ガフガリオンを追う」
「……うん」
投げつけられたポーションを握り、ラムザは切れる程に唇を噛んだ。自分の、あまりにも無様な姿が目に見えるようだった。ガフガリオンにもベオルブにも、翻弄されるだけで何も出来ない。本当に、何も出来ないのだと。
未熟、という言葉を魂に叩き込まれたようで、傷の為ではない荒い息を吐く。前方のアグリアスは追随する時魔の拘束魔法を振り払い、滑るように矢を二つかいくぐって歩墻に立って静止した。その姿は輝くように美しかった。
「矢だよ! 隠れて!」
時魔を一人燃やしたばかりのアグネスが処刑台から叫ぶ。幾つもの掠める矢の一つが、とうとう護符を破ってラムザの足に埋まった。声なくラムザは処刑台脇に転がって、弓師の死角に入った。
「傷は、ラムザ!?」
乱暴に矢を抜いて放り投げ、ラムザは体中にポーションを振り掛けてうめいた。
「アグネスは弓を減らして……。ムスタディオはまだ生きてる?」
「ラッドが面倒見てるよ」
アグネスの視線の先、門の石段脇に立つムスタディオが弓使いの胸を打ち抜くのが見えた。予想通り、彼もまた弓使いの最期の矢を腹に受けて倒れる。しかし、慌てて駆け寄るはずのラッドが見えない。倒れて痛がっているムスタディオの背後に、指先を白く光らせて時魔が立っている。
「ちょっと、何してんのさ、ラッドは!」
駆け出したアグネスの頭上、門の上の歩墻にラッドはいた。ガフガリオンと対峙し、その背後にアグリアスが立っている。彼女の切先は上がり気力は満ちているが、若木のように高く立って髪だけを風にそよがせている。危機的状況に気付いたらしいムスタディオが必死でずり起き、彼女の斜め下辺りに立って刑場を見回した。傾きながら対面の弓師に銃口を向ける。弓師は矢を番えながらも互いの射程距離を測って行動に出ない。背後の時魔が素早く逃げ空いた場所にラムザの矢が刺さり、駆け寄ったアグネスがムスタディオにポーションをぶちまけると、場は粘い硬直状態に陥った。
その中央にいるのは睨み合うガフガリオンとラッドだった。門上の見張り場の端にラッドは追い詰められていた。片足を突いて次の刃を受けるべく、頭を剣で庇っている。だがガフガリオンは唇を歪ませ笑いを貼り付けたまま、構えた剣を微動だにしない。
「やる事ってなンだ」
ガフガリオンが密やかに言い、ラッドは眉を上げた。
「さっき言ってただろうが」
「オヤジには関係ねえよ」
二人の会話が聞き取れるのはアグリアスだけだった。彼女が僅かに前ににじると、肩の上から束ねた髪が重そうに落ちた。
「戻るってンなら手伝ってやる」
「あんたには出来ねえよ」
「はっ、ラムザがらみってとこか」
「違う」
ラッドはゆらり、と膝を上げた。同時にガフガリオンの剣がすいっと前のめって指一本分を残してラッドの首に沿った。ラッドの剣は、ガフガリオンの刃と自分の体に挟まれて固定されている。
「今まで思った事もなかったけどよ」
ラッドは顔を上げてガフガリオンを見た。
「そういう時があるんだな。やんなきゃならねえ時が」
「いっぱしの口をきくようになったもンだな。女か」
ラッドは答えなかった。
「ラッドを離せ。私が相手になろう」
低い声にガフガリオンは唇を更に上げた。アグリアスを牽制するために、ガフガリオンは刃をぴくりとも動かさずに体だけを回してラッドの背後に回り、髪を掴んでアグリアスにラッドの喉を見せつける。
「姐さんか? 趣味は悪くないが、おまえにゃ乗りこなせないな」
苦しげに笑ってラッドは目だけで見上げた。
「俺はそこまで無謀じゃねえな」
「じゃああの女か。癖のある赤い金髪で、俺が背中を斬ってやった痩せてる女」
「ラヴィアンだ」
アグリアスの声は遮るものは何もないはずの場所で、こだまするように滲んだ。
「どこにいる」
「本気か?」
「何を」
「本当に、顛末を知りたいのかって聞いてるンだよ」
ひゅ、と誰かの喉が鳴った。アグリアスもラッドも相手の音だと思った。
「知りたい」
二人が同時に言った瞬間、僅かに動いたラッドの足をガフガリオンは一気に払った。がつん、と鎧の音が響き、転がったラッドは剣を握り直す暇も無く門上から蹴り落とされた。彼が地上に倒れる前にアグリアスの剣が石を噛み、振り仰ぐ彼女の頭上高くにガフガリオンの体があった。雲間から覗いた真上の太陽に目をすがめ、剣を眼前に掲げたアグリアスの視界に赤い光が広がり、刑場に澄んだ金属音が響いた。
その音に場の硬直はなぎ払われた。
全ての者が動き始める。アグネスはムスタディオにもう一つポーションを押し付けると全力で走って時魔に飛び掛った。ラムザの矢に弓師が広場を横断し、銃弾がそれを追う。取っ組み合いになっているアグネス達の横を走り抜けたラムザは石段の上で矢を射掛け、弓使いをムスタディオの射程距離に追い込む。回復しきらないムスタディオのうめく声が微かに流れるが、彼の正確な弾道はとうとう弓師の肩を貫き、弓を離した彼女が地に伏せたところでラムザは石段を登りきった。
赤い刃を剣で受け、仰向けに転がるアグリアスが見えた。ガフガリオンの背に弓を向けて矢を番え、しかしラムザは固まった。激しい目でアグリアスが止めたからだ。だめだ、ときらめく碧の目が言った。引き絞った矢をそのままに残し、足の裏に力をこめたままアグリアスを睨むように見つめる。
力は一見拮抗し、赤い剣は止まっているように見えるが、アグリアスの腹を踏みつけてぎりぎりと剣を擦らせるガフガリオンは明らかに余力を残している。ラムザがえぐった腹から血を垂らすガフガリオンの表情は苦痛にも嘲笑にも見える。空気を裂くような嫌な音が通り抜けて、ガフガリオンの剣がアグリアスに僅かに近づいた。しかし、自らの剣で額を切り、血を溢れさせるアグリアスは笑ったような顔をしていた。
「悪いな、姐さん。顔はキレイに残してやるつもりだったけどよ」
「気遣いは無用だ」
「最期くらい、女っぽく命乞いをしたらどうだい」
「残念だがやり方が分からない」
「おまえさんのそういうところが気に入ってたンだがな」
遠慮なくアグリアスは腹の傷を膝で押し、眉を寄せるガフガリオンはめり込むほどに体を寄せ続けている。
「終わりにするか」
「懺悔の言葉を聞いてやろう」
「口の減らねえ女だぜ!」
ばっ、と血が飛び散り、ラムザは矢先をふらつかせる。二人は一瞬で立ち上がると狭い歩墻の上で踊るように回った。打ち合う火花よりも血を散らす剣が交差し、ガフガリオンが痛みによろめけばアグリアスは目に入る血をぬぐう。身の入れ替わりが早く、狙いをつけられないラムザはムスタディオを呼ぶために一歩にじった。
「動くな、ラムザ!」
アグリアスが空気を裂くように叫び、大きく突き出した剣でガフガリオンを下がらせた瞬間、稲妻の速さと響きで詠唱を結んだ。
「聖光爆裂破!」
ラムザの一歩手前まで真白い亀裂が走り、濃い濃度の霧が流れる。緩んだ焦点の向こうでガフガリオンが傾くのが薄く見えた。空気に溶け込むようにアグリアスの闘気が消えると、膝を突き剣を寝かせたガフガリオンをアグリアスが見下ろしていた。
「オヴェリア様はどこだ!」
彼女は酷く気を荒らして咳き込むように言う。呆れ顔で見上げ、ガフガリオンは首を振った。仕方のねえ姐さんだな、と呟きが漏れた。
「もうラムザには言ったがな、ライオネルだ。女二人もそこにいる」
「ガフガリオン……」
ラムザは悄然とガフガリオンの横に立った。
「ラムザ」
苦しげに息を吐き、ガフガリオンはラムザを見上げた。彼はまだ、笑っていた。
「ジークデンの事は忘れろ。あれは仕方無かった」
「どうしてそんな事、知って……!」
「ダイスダーグはおしゃべりなンだよ。まあ、一人で悪巧みするのも疲れるってもンさ」
「……随分兄さんに肩入れするんだね」
「どんな外道でも仕方ねえだろう、俺を雇っている男だからな」
「……分かっててやってるなんて」
「諦めろ、おまえはベオルブの人間だ。与えられた役目を全うしなければならン、そういう種類の人間だ、それがおまえの運命だ」
「運命……」
ガフガリオンは難儀そうに立ち上がる。アグリアスは彼の剣を足の下に置き、再び緊張してガフガリオンに向かうがラムザがそれを手で遮る。
「僕が倒す」
「ラムザ」
「僕がやる!」
激しい殺意にアグリアスはむしろ一歩進み出た。
「これ以上は無意味だ」
「うるさいっ!」
ラムザはアグリアスまで打ち殺す勢いで彼女の剣を叩き、腕を痺れさせる強い衝撃に彼女は口を閉じた。奪われるままにラムザに剣を渡す。
「ザルバック兄さんがティータを死なせたのも、あれも、運命だなんて僕は信じない! 僕ら、そう、僕らが、自分達の都合でティータを殺したんだ!」
じりじりと迫れば、ガフガリオンは面白そうに笑う。わき腹だけでなく、アグリアスの作った傷が大きく太腿に口を開けている。溢れた血が、石の上に静かに広がっていた。
「僕は逃げてきた、ティータを殺したって事から逃げた! 間違いだったよ、何もかも間違っていた!」
「馬鹿を言う癖は直らないもンだな」
そして、甘い。どいつもこいつもな。
言葉が聞こえた瞬間、アグリアスは歩墻から弾き飛ばされた。衝撃に頭を振って身を起こせば処刑台の前、ラムザは頭上で大きく傾いている。足の下に敷いたガフガリオンの剣から、突き上げるように衝撃波がアグリアスを襲い、ラムザにも波及したようだった。剣そのものに何か意識があるように、詠唱など一音も聞こえなかった。ふらつく視界を腕で支え、アグリアスは門上を見上げた。
ガフガリオンは血色の剣を拾い、ラムザを斬ろうと踏み出したが足を止めた。直撃を免れたラムザは膝を突いて起き上がり、即座に剣の柄を握り直した。ガフガリオンはその桃色の刀身に一歩下がり、自分の血を踏んで僅かにかかとを滑らせた。彼もまた、限界に近かった。
「娘一人のためにそんな根性を見せるって訳か」
「これが僕のやり方なんだ!」
「たかが小娘一人、死んだところでどうということはないがな」
「僕の妹みたいな子だったんだっ!」
「それがどうした! 貴族に必要なものは、大儀だろうが!?」
「大儀!」
目の前に立つティータをガフガリオンがもう一度殺したような、そんな気がした。笑えば狂ってしまうから笑みの形に唇を固め、剣の刃を握ってラムザは耐えた。しかし、溢れる涙を止めることは出来なかった。
「可笑しい事言わないでよ! “大儀”なんて、あなたが!」
そんな言葉、あまりにも似合わない。
「俺だってな、この国を搾取した貴族の端くれだったンだよ」
ラムザはガフガリオンを見上げた。再び曇った天を背負ったガフガリオンは、重い枷を荷っている巨人に見えた。その姿にまた涙を零す。
「人を欺いて利用して、そこにどんな大儀が?」
「ラッドが言ってたろうが。何を犠牲にしても、やらなきゃならないものってのがあるンだ!」
「僕はこれ以上、犠牲になる人達を見過ごすことは出来ない! 僕のベオルブの誇りはそのためにあるんだ!」
「……笑わせてくれる」
「やるよ、僕はオヴェリア様を助ける……!」
「ベオルブの末弟が王家と北天騎士団を敵に回すか! 誰が信じるっていうンだ!」
「誰も知らなくていい! 僕は一人でもやり遂げる!」
涙を飛び散らせてラムザは立った。もう、立つことしか出来なかったが。
「私が信じる!」
アグリアスの声がラムザの心臓を貫いた。落ちた彼女は姿を見せない。アグネスが代わりに石段を上がって来るのが見えた。全身を引きずるように、ムスタディオがその後にいる。
「今更疑うものか! 私はおまえを、信じる!」
足に力が戻る。
ラムザは唇を結び、重い切先を真っ直ぐにガフガリオンに向けた。その姿に低く冷笑をくれてガフガリオンは後退し始める。刺さるような軋む音で、ガフガリオンは笑い続けた。
「お姫様を囲む喜劇だな、お幸せな奴らだよ、全く」
ガフガリオンは笑いながら見張り場の端に移動し、高く剣をかざした。
「オヴェリア様をどうするつもりなんだ……」
「俺か? 俺は、契約通りにガリオンヌに連れて行くだけだな。その後のことはどうでもいい事だ」
「……ラーグ公に引き渡すのか!」
「そうなるな」
「オヴェリア様は戦争の道具じゃない!」
ラムザは踏み出す。無理を承知で踏み出した。彼を倒さねば自分の道が失われてしまう、そんな執着だけでガフガリオンに近づく。
「やめな! ラムザ!」
装備の軽さのために近づけないアグネスが叫び、よろよろとムスタディオが前に出る。上がらない銃口を持ち上げ、強く歯を噛んでガフガリオンに狙いをつけた。背後の二人の視線に痛みを感じながらラムザは叫ぶ。
「誇りは、あなたの誇りはどこだッ! ラーグ公やあの人に使われて犬に成り下がっているあなたの誇りはどこにある!」
「そんなもの、とうに捨てちまったな。いや、金と交換しちまったかもな!」
「ガフガリオン!」
「……こういうことさ」
言うと、ガフガリオンは小さく何かを詠唱した。すると、爆発とも稲妻ともつかない赤い光が剣から発し、彼の姿が滲んだ。同時に、刑場に倒れていた生き残りの弓使いと白魔の姿も滲む。
「ガフガリオン!」
眩む光に崩れ、ラムザは見えない相手に絶叫した。赤く白く、ガフガリオンは輝いて、消えた。
「ラムザ!」
「ラムザ、おい!」
冷たい石の上に倒れ伏し、駆け寄る足音を聞く。
「……ライオネルへ行くんだ、ライオネル城へ……!」
意識を手放しながらラムザは胸の中の剣に呟いた。
それは誓いの言葉でもあった。二度と逃げ出さないため、二度と失わないための、彼だけの宣誓だった。
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