追手の一人を生かして捕らえると簡単に口を割った。ゴルゴラルダ処刑場にオヴェリアが移送されたとその男は言った。処刑は三日後。それまではどこかに監禁するということだがその場所は誰にも知らされなかったと。
「ともかくもゴルゴラルダに向かおう」
ラムザは誰も止める間もない素早さで、生かして帰す、と約束したその男の喉に剣を埋めながら言った。柄まで埋まるかという所まで深く差し入れ手首を捩る。
「ラムザ殿!」
柄を押さえようと伸ばすアグリアスの手をぱちり、と弾き、ラムザは男の胸に踵を置いて剣を引き抜いた。待ち受けていたアグネスが血止めをしようとポーションの蓋を開け、すぐに閉めた。既に男は死んでいた。
「落ち着いて、ラムザ」
アグネスがラムザの手から剣を取り上げる。アグリアスは死体からまだ溢れている血糊を踏みながらラムザを見た。怒りではなく深い軽蔑を死体に注ぎながらラムザはしばらくアグリアスの静かな目線を受け、やがて負けた、というようにすっと背を向けた。
ジャッキーがアグリアスの腕の傷を検分し、谷川から運び上げた水で手早く洗ってポーションを塗る。
「そんなに大変な傷じゃない。アグリアスはすぐに出発できるわ」
傷に包帯を巻きながらジャッキーが言う。官服自体は新しいが、袖が千切れたので素晴らしい格好とはいえなくなった。アグリアスはローブを着せ掛けるジャッキーに丁寧に断り、背筋を伸ばして立った。
「一刻でも早く、ゴルゴラルダに行きたいと思う。協力していただけるだろうか」
「今更来るなって言ったって、誰も言う事を聞かないよ」
余った水をムスタディオに頭から掛けてもらって血糊を流しながら、相変わらず構わない半裸の姿でラムザが言う。
「まあ、そういうこった。姐さんがしたいようにすりゃいいさ」
ラッドも同意する。アグリアスは一瞬眉を寄せてラッドを見た。彼の目がラヴィアンの所在を聞きたくて堪らない、と言っている。しかし彼は何も言わず、またアグリアスも頷くだけだった。
「でも、昨日の宿まで戻って今夜は休んだ方がいいわよ!」
ジャッキーが慌てて付け足す。
「ゴルゴラルダは急がなくてもここから二日で着ける場所でしょ、早くに行って監禁場所を闇雲に探して警戒されるよりも、刑場に出される時を狙うのがいいと思うの」
「あたしもそう思うよ。ポーションとケアルじゃアグリアスは回復しきらないよ。いざって時に倒れられても困るじゃないか」
皆の視線が集まって、アグリアスは拳を強く握り、そして溜息と共に手を開く。
「そう、思うか?」
「そうだよ、ジェッキーの作戦で行こう」
きっぱりラムザが言った。
「いいよね、アグリアスさん?」
ねめつけられ、急に、頬を触って叱られたことを思い出して苦笑が漏れる。
「急ぎたい。しかし確かに私は不安な状態だと思う。まずは食事が必要だと思うのだが食欲は……」
「食べてないのかい?」
「多分三日ほど」
「多分……ね」
アグネスが痛ましそうに、それでも苦笑でアグリアスの肩を触る。
「食欲が無いなら丁度いいかもねえ、もう少し歩いてくれる? あの森の外れに宿があるんだ。そこならベッドで眠れるし、ラムザもきちんと洗ってやれるしね。山を迂回しながら森をあっちの方角に抜けたらすぐゴルゴラルダだから、遠回りにもならない」
「そうか。歩く分には大丈夫だ」
アグリアスはアグネスに微笑んだ。笑わなくていいんだよ、とアグネスの呟きに、肩を叩き返すことで答える。
「よし、決まり」
立ち上がってラムザは先頭に立った。血だらけのシャツを濡らした体に羽織るからあまり洗った意味がなさそうだった。薄い金髪のあちこちも濃く変色している。
――それでも、綺麗なものだな。
ラムザの背中を追いながら、頂点を越えた日差しの熱さを感じてアグリアスは額の汗を拭った。
途中何度か、特訓中だというムスタディオの棒読みのケアルをアグリアスにかけながら、一行は日の入り前に宿に入った。今朝出発したばかりの連中が汚れて戻って来た事に宿の親父は眉一つ動かさず、やはり二部屋を与えてくれた。
食事まで少し間があり、女達は宿近くの泉に向かった。
「いや、一人でやれる」
「だめよ、ちゃんと手当てしてあげるから」
「そうだよ、さっさと脱ぎな」
「ちょっと、待て、あ」
頑強に抵抗するアグリアスを泉に突き落とすことで納得させる。
「……酷いな」
水は浅く、尻餅を着いた形でアグリアスは笑って顔を上げた。
「どうせ汚れているんだから服も洗えばいいのさ。脱ぐ気になったかい?」
「なった」
仕方ない、とアグリアスは官服を脱ぐ。ライオネルで新しいものを支給されたが、今回の逃走で手酷く汚れた。全部脱ぎ、一枚づつ目の前に上げてみて溜息を吐いた。
「ほら、石鹸……」
自分たちも服を脱ぎ、それぞれ汚れ物を抱えて泉に入ったところでジャッキーとアグネスは固まった。
「あんた……」
「……ああ、みっともないな。見なかったことにしておいてくれ」
「ごめんなさい、こんな酷い……」
「いや、いいんだ」
アグリアスの全身に傷があった。素肌に直接縛られた縄の痕、殴られた内出血、そして無数といっていい吸われた鬱血。殊に乳房回りに幾つも付いた歯型は生々しく、まだ血が滲んでいた。
「……薬、飲まないと」
アグネスは慎重にアグリアスの体に水をかけて言った。例の月のものを止める薬のことだ。おそらく監禁の間、アグリアスは薬を飲めていない。しかし、性行為直後に薬を倍量程度、継続して飲み続ければ妊娠しないのだ。ただし目眩などの副作用がきつい。
「いや、心配ない」
「だめ、飲んで。確かに今からオヴェリア様を助けなくちゃならないから副作用は辛いと思うわ。でも、今飲まないと、」
「違うんだ」
手を上げてジャッキーの言葉を止める。
「散々虐げられたが、妊娠するようなことはされていない。教会の高位の者が監視していたから間違いは無い。綺麗ごとだが、経典を守らせていたんだ」
「何よ、それ……」
悔しそうにアグネスが言う。
「あそこにハメなきゃ良いって? それで何が守られるのさ!」
「アグネス……気にしないで欲しい」
「そんなこと言わないで、気にさせて。あたしたち、助けになれない?」
二人の真摯な目。
しん、と静まった泉に太陽が終りの光を投げかけ、どこからか注ぎ込む清浄な水音がちろちろと聞こえている。
アグリアスは項垂れた。三日間の地獄を思う。
「……辛かった。あなた達の姿を見て、夢だと思った。一緒にいてくれるだけで助けてもらっている……」
「アグリアス……」
ジャッキーが泣き、アグネスは怒り、アグリアスは苦笑する。
「ああもう! こんな痕、すぐに消しちゃおう!」
勢いよく水から上がり、ジャッキーが涙をごしごし拭きながら笑う。持ってきていたポーションをアグネスと二人でアグリアスに塗っていく。
「いや、こんなもの放っておけばすぐに治るから」
「いやよ! 今、治すの!」
「ポーションがもったいない、」
「馬鹿だね! こういう時に使わなくて何時使うんだよ!」
有無を言わさない女達に微笑んで好きにさせる。
「ねえ、ラヴィアンとアリシアは?」
ふと、気付いたようにジャッキーが顔を上げた。
「おそらく、オヴェリア様と共に処刑場に移送されたと思う」
「じゃあ、まとめて助けられるね」
気楽に言うアグネス。
「手間を掛けるがよろしく頼む」
任せなさい、と笑う二人。
――嘘を、吐いた。
二人が今、自分の代わりに手酷い目に合っていることは疑いなく、しかしそれを言うことは出来ない。言えばすぐにでも城に取って返して二人を助けると皆は言うだろう。あの頑強な城、攻め込んでよしんば救出に成功しても、その足でゴルゴラルダにとって返してオヴェリアを救えるとは思えない。死ぬ瞬間まで自分はオヴェリアの僕だから、二人の部下を、見捨てる。
――ラヴィアン、アリシア。
かいがいしく自分を洗い、薬を塗って慰めてくれる新しい仲間を見つめてアグリアスの顔が歪む。
アグネス達のような形では親しくはしなかったが、それは貴族のごく当たり前の習慣。決して部下と上官、というだけの冷たい関係ではなかった。笑い合い、杯を合わせ、同じ戦場で戦ってきた大切な者達。
「痛かった?」
心配そうにジャッキーが聞いて、アグリアスは首を振る。
「なんでもない、ありがとう」
――ラヴィアン。アリシア……。
仰ぐ天は暗い。アグリアスの目には神の慈悲は見えなかった。
夕食は野菜のスープと黒パン、それにハムと果物が付いた。辺境の宿にしては豪華な振る舞いに、一向は重い気分でありながらも華やいで夕餉の席に着いていた。その中でムスタディオは自分の失態を言いたくて堪らない様子でアグリアスを伺っていたが、アグネスに目線で止められている。もぞもぞしている彼の様子にラムザは摘んだハムを揺らしてムスタディオの気を引いてみる。
「ホラ、ムスタディオ、パンにハムを挟んで食べたらいいよ」
「え? ハム? これ? スープに入れたけど」
「……拾えば?」
「生で食っていいのか? ん? 塩漬け肉なんだなーこれ」
「ハム、食べないの? ゴーグで」
庶民派ジャッキーも驚いてムスタディオを見る。一般家庭ではたまにしか食べられるものではないが、見たことくらいはあるはずだ。
「
「んー? ゴーグは暑いからなー。もっとがんがんに塩漬けにして硬くなったやつか、旅の間に食べた乾燥肉みたいな乾いたやつじゃないとすぐ腐っちまうよ」
「そうなんだ」
「ジャッキー、実家がウォージリスだったんだろ? 寄れなくて残念だったな」
ムスタディオは言われた通りにスープの中からハムを救出してパンに乗せている。ジャッキーは彼の質問には曖昧に笑うだけだった。ジャッキーにとってその実家とは、虐待を続けた義父と義兄達、そして知っていて何もしなかった母の住む、生涯帰るつもりのない場所だった。
「アグリアス、スープ飲まないのかい?」
あっちでもこっちでも気まずいもんだよ、とアグネスは話をアグリアスに振った。しかしそれは一番まずい事だったらしい。
「ああ……。いや、もう」
「もうって、さっきからパンばっかりかじってるじゃないか。急に固形物を食べると調子悪くなるよ」
「果物があるから」
「スープ、飲みな」
アグネスが、冷めたアグリアスのスープを自分の皿に空けて、暖かいスープを注ぎ直した。湯気の立つスープを目の前にして、アグリアスは少し躊躇した。そして思い切って、という風に勢い良くスプーンを突っ込んですくうと口に流しこんだ。
「……アグリアス?」
「……」
「もしかして口に合わないとか?」
「……」
「悪かったよ、無理しないで」
「アグネス、そうじゃないんだ」
アグリアスはようやく飲み込むと、隣のアグネスの袖を引っ張った。
「え?」
「だから、」
「あ……! そうか、そうだね、悪かったよ……」
「いや、どうにもできなくてすまない」
驚きと悲しみと、両方の表情で首を振るアグネスの後ろにいつのまにかラムザがいた。気付いたアグネスは、あんた馬鹿でしょ、何聞いてんのよ馬鹿、とラムザの髪を引っ張った。
「僕は隊長だから知ってないと。ねえ、アグリアスさん」
「……構わない」
「ほら、いいって、放してよアグネス、痛いよ」
しぶしぶと放し、アグネスはアグリアスに肩をすくめてみせた。
少なくとも一日半は歩き通しになる道のり、綿密な計画は歩きながらでもできると、皆アグリアスを早く寝かせたがった。心遣いに感謝をしながらアグリアスは一人部屋に向かった。恐らく彼らはしばらく作戦会議をするのだろう。参加したかったが、食事を摂った体はただ重くなるばかり、夜着に着替えるとアグリアスは寝台に倒れ込んだ。色々なことが頭を巡るが疲れた体を癒すために無理にも目を閉じて数を数えた。こういう時にはよくやることだった。安直だがよく効く。腫れた神経をなだめるようにゆっくりと数を数え、呼吸を一定にする。そして今日見たものの中で、一番美しかったものを思い出すのだ。
それは、夢のように目の前に現れた、不機嫌この上ないラムザの顔だった。
夜半、アグリアスは起き上がった。アグネスとジャッキーは静かに寝息を立てている。起さぬようにそっと足を床に下ろし、寝台の側に掛けた上着を手にする。
「どこ行くの?」
アグネスが眠そうに言った。
「喉が渇いた。起して悪い」
「ん……いいんだよ、行っといで」
さすがに敏いものだなと笑ってアグリアスは部屋を出た。数時間眠ったお陰で体はかなり回復している。矢傷ももう痛まなかった。
食堂は暗く、テーブルの表面がきらきら光っているだけで水差しの在処はわからなかった。ランプがあるのは見えるが、その種火が無い。眠る前に用意しておけばよかったと、がっかりして部屋に戻ろうと踵を返した。
「何? 何、探してるの?」
急に声がして、アグリアスは咄嗟に腰に手をやった。もちろん剣はそこには無い。
「ラムザ殿……?」
肩から力を抜いて戸口を見る。食堂の裏手には井戸があり、そこに行くための扉があった。開いた扉に影になったラムザの姿があった。
「水を探しているんだが……」
「井戸、こっちだよ」
おいで、とラムザは言った。どこか昼間の様子とは違ったが、アグリアスは彼の手招きに従って扉を出た。
井戸は宿のすぐ脇にあり、ラムザがつるべを引き上げる音がきしきしと聞こえる。
「すまないな」
ラムザは井戸の縁に桶を置いた。
「桶しかないから、このまま飲んでよ」
ふと、不安になった。飲めるだろうか。
「冷たいから、美味しいよ」
思考を読んだようにラムザが言った。
手を漬し、水をすくう。地下の水は冷たく、誘惑するような柔らかい手触りだった。口に運ぶ。目を閉じて喉を通っていく感覚を堪える。乾きが癒える安堵と、そして。
「僕にも覚えがある」
月を背にラムザが言った。表情が見えない。前にもこんなことがあっただろうか。妙な既視感を覚えてアグリアスは目を細めた。
「喉に液体が通るだけでアレの味を思い出して吐きそうになるんだよね」
無言でアグリアスはラムザを見つめた。彼はすっと横顔を見せ、続いて背を向けた。
「大丈夫だよ、水にはすぐに慣れるよ。臭いが無いし粘っこくないし、冷たいからね」
「ラムザ……」
「うん、そっちの方がいい。”殿”なんていらない」
そう言ってふらふら歩いて行くからなんとなくその後を追う。ラムザはあの夜警の時と同様、背の高い木を見つけるとするすると登ってアグリアスの手の届かないところに行ってしまった。
「ラムザ?」
アグリアスは手を伸ばした。幹を背に、太い枝の上でくつろいでいるラムザは月に照らされて輪郭が白い。
「そのまま眠るのか?」
「少しここにいたいんだ」
ラムザは動かない。アグリアスは側に行きたい衝動に駆られたが、それでどうしようというのかと自分を笑って木の下に留まった。
月が静かに光を落としている。小さな虫の声が、降りしきる月光が積もっていく音のように、微かに辺りに漂っている。幹を背に、ラムザの下で、アグリアスは黙って降り積もる月の光を見ていた。
「オヴェリア様も月を見ているかな」
虫の音に紛れてラムザが呟いた。
見上げれば彼は降りて来るところだった。目の前に立つとラムザは微笑してアグリアスを見た。彼の白過ぎる肌の上で何かの恵みのように月の光がはぜている。珊瑚色の唇が開きかけて閉じ、薄い色の金髪があるか無いかの風にひらひらと揺れた。捕まえようとしても決して手の中には残らないかそけき夢の美しさ、アグリアスは言わずにいられなかった。
「オヴェリア様を、私と共に守ってはくれないか?」
共に、生きてはくれないか。
「助けに行くよ?」
「……この先も。近衛になって欲しい。君の助けが必要だ」
「近衛騎士団でいる必要はないんじゃないかな。これではっきりしたでしょう、オヴェリア様は王家に捨てられたのだから」
「それでは私は君の隊に入ろう。傭兵となって、オヴェリア様に雇われればいい訳だ」
「そこまでオヴェリア様に忠誠を尽すの?」
ラムザは一歩近寄った。アグリアスは全ての警戒を解いて受け入れる。
「忠誠を尽すなら、そんなに僕を信用しない方がいい」
両手を幹に、アグリアスを挟んでラムザは迫った。
「僕はね、誰もが認める甘ちゃんの上、自分の経験を恥ずかしげもなく生かすタイプなんだ」
「ラムザ?」
「ガフガリオンの元にいた時、僕は拷問担当だったよ。何も知らない幼いくらいの女の子や男の子を平気で犯して自白させた。どうすれば女の体が裂けるか知ってるから、男を舐めてるような大人の女でも簡単に口を割ったよ」
アグリアスはラムザを見た。以前、目線は僅かに下だったような気がする。しかし今は真っ直ぐに結べる。
「そういう事、あのガーシュインでも嫌がってたな。ガフガリオンは頼むくせに不機嫌になってた。甘いばかりで怒らせるくせに、下は大した度胸だってね。ジャッキーはぶるぶる震えてどこかに隠れてしまったけど、アグネスは後始末をすっかりしてくれてた」
裂けた体を縫ったりしてたんだよ、とラムザは優しく言い、二人の足が触れ合った。
「ラムザ」
アグリアスはドーターでの出来事を思い出した。あの時のガフガリオン達の奇妙な沈黙とジャッキーの息を吸い込む音が蘇る。
アグリアスは微笑んだ。あの時、ガフガリオンは、本当に傷ついた顔をしてアグリアスに頼んだ。あんたが決めてくれ、出来れば止めて欲しい、と。あの肝の太い男が出来なかった事を自分が出来るとは思えずにアグリアスは微笑んだ。逆にラムザは憤慨したのか、少し怒って顔を寄せてくる。
額面通りにラムザの言葉を受け取っても、その底にある未だ血の噴出す傷の存在を悟っても、どちらにしてもラムザは。
「綺麗だ」
びっくりして目を見開くラムザの頬に、硝子細工を手に取るような慎重な仕草で手のひらを当てる。そっと、その輝きを愛でるようにしてアグリアスは彼の唇に口付けた。押し当てるだけですぐに離し、ラムザがそのままじっとしているのでもう一度口付ける。
「可笑しいよ、アグリアスさん」
「ならば笑って構わない」
ラムザの腕が静かに締まってアグリアスの背中を幹から浮かして胸を合わせた。
「可笑しいよ、アグリアスさん」
僅かに、ほんの僅かにラムザは自分から唇を併せ、そして次の瞬間抱いていた体を突き飛ばすようにして走って行った。
その背中にはやはり月の光が降り注ぎ、きらきらと光を弾きながらなびく髪が、いつまでもアグリアスの目に焼き付いた。
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